村上春樹「アフターダーク」

一気に読んだ。
内容に触れる前に告白すると、
僕は前作「海辺のカフカ」さらに「ねじまき鳥クロニクル」を読んでない。
だから村上春樹の「最近の作品の傾向」というものを追えていないわけだけど、
この最新作「アフターダーク」を読み終わって…うーん。

これ、評価が難しいよね。
少なくとも「今までので一番好き」という人はいないと思うけど。
読み終わってまさに「…うーん」という感じ。

難解と言えば難解。
村上春樹らしくないな、と思ったのは文体と視点で、
(まあ最近のを読んでないので何とも言えない部分はあるのだが)、
文体に関しては独特のリズムに欠ける気がした。
でも「欠ける」というのは、読むこちらが「ある定型」を期待していて、
それと違うから感じる物足りなさというか違和感なのかもしれない。
だからそこは何とも言えない。

そして今回は著者にとって初めての「第三者的視点」で綴られている。
ひたすら精緻に描写するという「ひところの村上龍」とは明らかに違うのは、
カメラアイとして設定された読者の視点が、ちょっと異世界的な部分だろうか。
この世のものではない、実体のない存在としての視点。
そこに村上春樹らしさを残していると言えば残しているのだが。

翻訳文体的なドライな感触と、基本的に過去形一人称で語ることによって
「初めて読むわりにずいぶん昔に書かれた他人の手紙を読んでいるような」、
そんな印象があった今までの氏の作品だが、
現代的風俗要素と「らしくない」キャラクター。現在進行形の文体。
この「変化」は村上春樹の「進化」なのか?
なんとなくだが過渡期的な作品のような気がした。
そうでなければ…村上春樹は、小説という表現形態をまだ求めているのか?
極端に言えばそんな気さえした。
じゃあ代わりに何だ、と言われればわからないけど。

なんかさあ、ずいぶん前だけど桑田佳祐が、
技術的には先端で凄いんだけど、それまでのサザンとちょっとかけ離れた、
「今日性」のある楽曲を出してた時期があって、それでいまいち売れなくて、
かつてのテイストを感じる「TSUNAMI」でバーンと来たじゃない。
その「TSUNAMI前」みたいな感じを思いました。
ちょっと過渡期的に、今までと違うほうに行ったのかなと。
それでまた「TSUNAMI的」なほうに村上春樹が戻るのか、
それともここから新しいステージにブレイクスルーするのかはわかりませんが。
まあ「ポップス」(実は凄い言葉だよね)と違って「売れる重視」じゃないから、
例えとして的確じゃないかもだけどさ。

率直に言うと、もっと「連れてって」欲しかったんだよね。
かつての「病的な吸引力」があるわけでもない。
これは昔からだが、カタルシスが(当然)あるわけじゃない。
かなり読者を突き放した感のある一作でした。

これは村上春樹の「進化」なんだろうか?
…うーん。

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Tracked from ホンノコト at 2004-09-16 00:37
タイトル : 「アフターダーク」その後。
私自身は、こちらで、読んだあとに何の考えもなく、ささっと感想を 書いたので、特に深く考えてなかったのだけれど。 人生初トラックバックいただいた記念で、ほんのちょっとだけ考えてみよう。 ... more
Tracked from 象吉のそぞろある記 at 2004-09-23 15:12
タイトル : 「アフターダーク」再び
一度読んだ後に、今度はゆっくり読んでみた。結局、少し分かったような、全然分からないような、、、。でもやっぱり、村上春樹の小説を「わからんなぁ」と言いながら考えるのが好きなんだな、きっと。 (以下、「アフターダーク」についての考察です。 ただし、自分の世界を大切にしたい方もいると思うので、こういう形にしました。 人の考察を読むのに抵抗ない人だけ、下をクリックしてくださいね。)... more
Commented by シホ at 2004-09-13 01:45 x
私も最近の春樹作品、読んでなくて。
「海辺のカフカ」も「ねじまき…」も。「ねじまき…」なんか、持ってるのに、読んでないんだな。
私も昔の春樹作品が好きで、最近のはなんか、私が求めたいモノとちょっと変わってきてるような気がして怖い感じがして読んでないんだよね。
これでは最新作は読めんな。。
Commented by みかち at 2004-09-13 12:03 x
同じく、「海辺のカフカ」を途中でやめてしまってから読んでない人です。
それ以前の作品は何度も読んでいるのにね。
昨日も、富士登山後帰りのバスを待っている間に「風の歌を聴け」を読破したり。

にしても、「第三者的視点」というのは、あまりに今までと違い過ぎて
読む前から言うことじゃないけれど違和感、どちらかというと拒否感に似たもんを感じずにはいられない。

私は多分、とうぶん読まんです。
Commented by shinobu_kaki at 2004-09-13 13:12
>シホさん、みったん

「おすすめできないレビュー」になってしまった(笑
でも色々見てみても、世間的評価というか感想は、
「とまどい」が圧倒的に多いみたいです。
僕にしてもそうで、なんか中途半端な印象ですた。
Commented by shinobu_kaki at 2004-09-13 17:16
第三者的視点、正確には「長編として初」だったかな?
うろ覚え情報であれですが、いちおう訂正します。
Commented by あい at 2004-09-13 18:46 x
私は活字の好き嫌いが激しいので、
「村上龍」は読めるのに、「村上春樹」は読んだ事がないのです。
最初に読み始めて吸い込まれたら、最後まで一気に読むんですが、
「春樹」にはそれがなかったです。

私、ず~っと下にある江國香織の言葉の記事にTBしたんですけど、
上手く反映されなかったようです。
Commented by アキ男。 at 2004-09-13 19:39 x
あたし、「海辺のカフカ」夢中で読みましたよ。

香川県を舞台にした話。
あたしも去年自転車遍路するために
香川に夜行バスで向かったので、
まるで自分のことのよに思えたからってだけなんだけど。

病的な吸引力といえば「スプートニクの恋人」。

すいません、しったかです。

春樹さんの作品は、なんだか数学のよにはっきりした答えがなくて
あたしはちょっと歯になんか挟まった感が否めません。
Commented by shinobu_kaki at 2004-09-13 19:40
>あいさん

文体の「肌が合わない」ってあるよね。
僕も本屋で数ページめくってみて、
なんだか合わないな、と思った本は買わないです。
どの作家かと言われると、たくさんありすぎてわからない(笑
簡潔な文体だといいかというとそうでもないので、
不思議なもんです。

TB、たまに上手くいかないことがありますよね。
あいさんの記事は読んでいたのだけど、
そしてコメントしようと思っていたのだけど、
遅くなっちまいました。
Commented by shinobu_kaki at 2004-09-13 20:14
>アキ男。

「過負荷」は完全に期を逸したYO…。
いつか読みたくなったその日の為に取っておくことにします。

>病的な吸引力といえば「スプートニクの恋人」。
いや良く分かるよ。
あと、何だか訳のわからないままに海外に行って、
途方にくれる感じとかすごく良く描けてると思タヨ。

病的と言えば売れに売れたかつての「ノルウェイの森」だけど、
あれ読んでるあいだじゅう、ずっと自分が、
ひえびえとしたサナトリウムにいるみたいな感じがあった。
結構不気味だった。それが良かったんだけど。


Commented by アキ男。 at 2004-09-13 20:45 x
「ノルウェイの森」は、出会ってしまったのが
手の届かぬエロスに悶々としていた
中学生だったので
エッチのシーンだけ読んで
それだけしか記憶に残ってません。

もったいないよね・・・いつか再挑戦します。
Commented by shinobu_kaki at 2004-09-14 01:46
「直子は僕をゆっくりとシャセーに導いた…」
みたいなやつですな。

>それだけしか記憶に残ってません

村上春樹もびっくりだと思う(笑
もっぺん読みましょう。
Commented by seri0630 at 2004-09-23 14:52
はじめまして。
トラックバックをさせていただきました。
「アフターダーク」に関する考察を書きましたので、もしご興味あれば、是非遊びにきてください。
Commented by shinobu_kaki at 2004-09-23 21:18
>seri0630さん

トラバ、ありがとうございます。
対比論的な考察、非常に興味深く読ませて頂きました。
説得力があると思いました。

村上春樹はどこかの対談の中で、
自分の意識がデタッチメントからコミットメントヘ移行してきた、
というような事を話していましたが、
彼の小説のスタイルの移りかわりを思うと
それは非常によくわかるというか「そうかもしれない」と思いますね。
モチーフは不気味というか病理的ではあるのだけど、
意識としては開かれていて(健康的で)、その結果、
こういった内的世界の発露、というようなスタイルになっている、
「自意識」とは「他意識」の事であるように、
海外に行くと日本がよく見えるように、
他人に対してコミュニケーションの姿勢を開いていけばいくほど、
その「いびつな個的世界」が浮き彫りになるという、
そしてそれは「いびつな個的世界」であるがゆえに、
「他人」である読者からすると、ちょっと違和感を禁じ得ない、
そういった事かもしれないと思いました。

脱線しましたが。

「次の力作のための実験小説のような位置付けでは」という御意見、
僕も同感です。
こちらからもまた、遊びに行かせていただきます。
Commented by seri0630 at 2004-09-23 23:14
「他人に対してコミュニケーションの姿勢を開いていけばいくほど、その「いびつな個的世界」が浮き彫りになる」って、すごく新鮮な考え方ですね。そういう意味で言うと、blogでも同じことが言えたりして(笑)。

ぼくもまたちょくちょく遊びに来させてもらいます。よろしくお願いします。
Commented by shinobu_kaki at 2004-09-23 23:33
>seri0630さん

自分自身あまり的確に書けた気がしませんが(笑)、
まあ「胸襟を開くと地肌が見える」って話で、
Blogに限らず全てにいえる気がします。

こちらこそどうぞよろしくです。
by shinobu_kaki | 2004-09-13 00:43 | shinoBOOKS | Trackback(2) | Comments(14)

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