新ジャンルは侮蔑をもって迎えられる。

例えば「小説」である。
今ではそれなりに知的な印象を持って迎えられるジャンルであるが、
漢書を起源とする「小説」という言葉は、
「取るに足らないもの」「価値のないもの」という
侮蔑的な意味からはじまっている。

かように新しいものはしばしば侮蔑をもって迎えられる。
それは、まさに名づけをする側の人間たちが、
その時点でのマジョリティ、
つまり旧価値観に属する人間という構造があるからであろう。
彼らにとってみれば新しい潮流などというものは、
「低俗な流行りもの」に過ぎないものであり、
またそうでなければならないのだ。

しかし、そんな「低俗な流行りもの」は、
時代が移り変わるにしたがって確固たる地位を獲得し、
そして名前だけが残る。「新ジャンル」の誕生である。

もともと侮蔑語から生まれた名前は「様式」に顕著だ。
いくつか挙げてみたいと思う。


●ゴシック(Gothic)

僕はデザイナー職なので、
「ゴシック」と聞くとまず書体を思い浮かべる。
ゴシック体とは縦横の太さが比較的に均等であり、
総じて骨太な印象を与える書体である。
そもそも「ゴシック」とは(wikipediaによると)、
西ヨーロッパの12世紀後半から15世紀にかけての
建築や美術一般を示す用語であるらしい。
そしてゴシックもまた侮蔑語であった。
15世紀~16世紀のルネサンス期イタリアの人文主義者たちが、
混乱や無秩序が支配する野蛮な様式だとして「ゴート族の様式」、
つまり「ゴシック様式」だと言い表したのだった。


●バロック(baroque)

バロックという言葉は、真珠や宝石のいびつな形を指す
ポルトガル語のbarrocoから来ているらしい。
これもまた侮蔑的なニュアンスを含んでいる言葉である。
不完全、いびつ、異常、奇妙、グロテスク、不規則…。
しかしこれらが肯定的な意味合いを帯びたとき、
複雑、個性的といった評価になるのである。
そう言えば黒川記章が若尾文子を、
「君の美しさはバロックの美しさ」とか言って口説いた、
という話が印象に残っていますな。


●ロココ(rococo)

曲線を多用する繊細で優美なスタイル。
語源は岩を意味するロカイユ(rocaille)であり、自然的な造形。
たしかに植物を模したようなフォルムが特徴的。
独立した様式というよりは後期バロックの一部とも言われるが、
まあ正確な定義はインターネットにいくらでも落ちているので、
そちらを見ていただくとして、
個人的にはやはりロココと言えばブルボン王家ですね。
つまりはお菓子を食べろ的なあれですね。


かように、ひとつのジャンルの名前として定着してるものですら、
もともとは侮蔑的ニュアンスの言葉であったことが多いのだ。
面白いのは、そういったネガティブな意味だからとて、
ジャンルとして独り立ちした後もその名を使い続けることである。
もちろん言葉の善し悪しで名前がつけられるというわけではないのだが、
立派になった人が幼い時の渾名をそのまま使い続けるようで、
(ブラジル人サッカー選手などに多いケースだ)、
こういうのはけっこう興味深い。
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by shinobu_kaki | 2011-07-22 20:30 | エウレーカ! | Trackback | Comments(0)

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