坊ちゃん出張。

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羽田の第2ターミナルの新しさに圧倒されつつ出張は始まった。


 親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。
 小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。
 なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。
 別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、
 同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。
 弱虫やーい。と囃したからである。小使に負ぶさって帰って来た時、
 おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて
 腰を抜かす奴があるかと云ったから、
 この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

 夏目漱石「坊ちゃん」より


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松山は高校生の時以来だから、かれこれ15年にもなる。
その時の記憶はもう、ほとんどない。
出張といえども旅、事前に情報を集めてはみるのだが、
お世辞にも艶やかと呼べるものはない。
だいたいが「道後温泉」そして「坊ちゃん」にとどめを刺す。
温泉と小説だ。なんとも文学的と言わなければなるまい。
そして広い道路の真ん中を走る路面電車。これだ。
車と一緒に信号待ちを行なうこのバスと見まごう電車は、
完全に松山の街の中に人々の足として、また風情として一体化されている。
車と、バスと、電車が並んで走る。見た目に忙しく新鮮だが、
松山には日常だ。非常にスムースに人々は行き交う。

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ふと、県庁前の通りにデジャヴを感じる。
デジャヴは久しぶりだった。
わたしはデジャヴの感じ方に対して少々過剰なところがあり、
くらくらと立ちくらみのような状態になって立っていられなくなるほどだが、
今回は久しぶりのそれであった。
高校時代にここを歩いたことがある。
それは陽炎の立ち上る暑いさなかのことであったのだが、
広い道路、走る路面電車、少し背の高い建物と緑。
確かにここを歩いた記憶がくらくらと蘇った。

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中学校はヘルメット。「ヘル中」という。
わたしの中学もヘル中であった。
懐かしくなり、こっそりとシャッターを切る。
なにも素直にヘルメットをかぶることもないのだが、
真面目な中学生はきちんとかぶって登下校する。
いまにして思えば、なぜヘルメットなのであろう。
転んだ時の安全対策にしては、あまりに意味がない。
頭から転ぶ中学生がいたとしたら、
その運動神経全般に問題があると思われる。
もしくはこのヘルメットで命が助かった事例があるのかしらん。
まあ、一種の「制服」のようなものかもしれない、
そう結論づけてみるとしよう。

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「愛媛」というのは「美しい女性」という意味だそうである。
とても良い名と思われる。
そういう観点でいくと「愛知」もなかなかだ。
「神戸」というのも意味深だし、「和歌山」というのも滋味がある。
「京都」などは「みやこ」という意味の言葉の2段重ねだ。
そんなことを考えながら喫茶店の前を通りがかると、
猫がみゃあみゃあ鳴いてゐた。
動物の鳴き声というのはともすると、
なにを望んでいるのかわからないことが往々にしてあるのだが、
この時ははっきりとこの小さな猫の心情を解することができた。
「ちょっと〜中に入れてよォ〜」とやつは言っているのであった。
その様子が可愛くて思わずカメラを向けると、
中から飼い主とおぼしき女性が「すいません」とひと言、
泣く子を中に入れてやる。漱石だけに猫であった。

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地方都市というのは城下町が多く、
街の中心部に城址があってそのまわりに整然と区画された道路が走る。
ところどころに文明開化以前の名残が見られ、
それは金沢でも仙台でも変わらない。
クリーニング屋の脇の路地の奥に立派な門があったりもする。

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高松は讃岐うどんだが、松山にそれに代わるものはあるか。
みたところ、どうも無い。
なぜなら松山の至る所に「手打ちうどん」の暖簾が認められるからだ。
店によっては「讃岐『風』うどんできます」などと、
二番煎じを認める謙虚な姿勢も見られるほどに。
讃岐じゃなくても手打ちは魅力。夕方の薄暮の時間、
いわゆる小腹がすいたので、ひとつ食べてみることにした。

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がらがらと戸を開けて入るが時間が半端なためか、客はいない。
かま玉うどんを注文した。つゆはなく、ゆで上げたうどんに生卵を落とし、
生醤油をつるっと掛けていただくアレだ。
カウンターに座して待つ。目の前で店主がこしらえる。鍋に玉を入れ、ふたをする。
邪魔者はいない。一対一、男同士のサシの勝負なのだ。
しかし、長い。ひたすら待たされる。うどん一玉に店主は命を掛けているのだ。
まだ店主はふたを押さえたままである。終始無言の時が流れる。
やっと来た。かつぶしと天かす少量を掛け、醤油をたらして口へと運んだ。
後に、先方の担当者曰く
「ああ、あの店は『中の中』って感じですね。フツーです」

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夜は夜とて居酒屋で打ち上げる。
伊予ポジョ」という独自に育てあげられた鶏の店に入り、刺身やら焼き鳥やら。
そのあと有志というか男のみ3名でBARに行き、
スコッチを数杯空けながら来し方行く末などを話す。

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出発の朝。
ホテルのロビーに集まると、タクシーで空港へと向かう。
途中、街のど真ん中に済美高校。
甲子園に彗星のように現れ、春夏連覇を惜しくも逃した怪物高校。
済美はまるで病院のような風体をしていた。
結局道後温泉に入ったものもおらず、
漱石が「まっち箱」と形容した坊ちゃん電車に乗ったものもいない。
松山は終始曇り空。

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空港でじゃこ天うどんと明石焼きを食べていく。
じゃこは名物だそうだ。想像したものよりもじゃこ天は分厚く、相当美味い。
食べているうちに飛行機の離陸時間近く、
羽田とは似つかぬ小さな空港から、勢い良く飛行機は飛びだした。
眼下にはすぐに工業地帯と瀬戸内海が見えだした。
海はすぐそばにあったのである。
しかし飛行機はトビのようにゆったりと旋回を行なうと、
曇天もじゃこ天も、猫も温泉も出張も漱石も路面電車もデジャヴも関係のない、
まったく青と白の世界であるところの雲海の上へと飛んでいった。
機内アナウンス。東京の気温はおよそ10度。
1時間と少しで暖かい東京へと。

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※仕事の記述がまったくありませんが、仕事をしなかったわけではありません。よ。
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Tracked from サトコアラ航空 at 2005-01-27 13:32
タイトル : 道後温泉の思い出
シノブ氏が松山に行っているということで蘇った懐かしい記憶。 松山といえば道後温泉。 道後温泉の思い出といえば。 女5人(まちださわみちteam)で1泊2日の強行!四国バス縦断ツアーに参加。 土佐空港から降りるが、FLTの変更の関係で竜馬像はみれずに 金毘羅や...... more
Commented by さや at 2005-01-26 14:05 x
シノブさんの出張報告を読んでいただけなのになんかちょっと小旅行気分になりました。

愛媛が「美しいひと」と言う意味があるとは知りませんでした。
地名も意味深なのですね。
なんかちょっとさぐるもの面白そうと思ってしまいました。
シノブさんっていろんなこと詳しそうだから「うんちく王」なみにいろいろ
知ってそう!

ヘルメットの中学生-「ヘル中」ってすごいですね。
その地域のナゾってあるんですね。
そういえばうちの高校は「上履き」ではなく「健康サンダル」でした。
Commented by kyon at 2005-01-26 14:42 x
3枚目は「ラフォーレ原宿松山」ですね。
以前「沖縄黒糖ロシア」という、結局どこ?みたいなパンがありましたがそんな感じ。
中学生の写真、爆笑してしまいました・・懐かし・・
(「ヘル中」とは呼んでなかったけど)
私は、校門でチェックしてるから(「ノーヘル」だと注意される)
近づいたらかぶる、って感じでしたが。
(短時間とはいえかぶってました、はい)

>もしくはこのヘルメットで命が助かった事例があるのかしらん。
・・・それがあるんです。。
メガネスーパーの前で事故って助かった中学の同級生O君、
新聞に「ヘルメットが救った少年の命」と書かれてしまって。
その後さんざんからかわれていたのは言うまでもありません。
Commented by あい at 2005-01-26 15:08 x
私も「ヘル中」でした。ノーへルは見つかると先生にグーで殴られる。

車なんてぇめったにぃ通らないのにぃ、蛍光テープのついたヘルメット>あ、これはSAGAだった。
でも、そういうヘルメットと昼間なのに蛍光タスキでした(T_T)。

そこに食いついちゃった。写真は15年前のあの日。

松山…、3歳の時に行ったな~。

Commented by kuro at 2005-01-26 15:36 x
このラフォーレ、凄いね。

なんか、
どこか異国情緒すら感じるような、
景観とかデザインとか、8割がた無視しているかのような、
強引な迫力を感じますな>しのぼっちゃん。


そーだったのか。
中学生のヘルメット。
先生のぐーから身を守るために。

んーむ。
Commented by りかたん at 2005-01-26 15:40 x
私も、勤務中に小旅行しちゃいましたよ☆

シノブさんって、いろいろ詳しいのに、うんちくをがばーって話さないですよね。っと今日いづみちゃんの記事を見ていて、思いました。聞き上手!!

それから、うどん、やっぱり本場ってかんじですよね。私も食べたいなー

ってそもそも出張ないし。日曜出勤はあるみたいだけど(><)

それから、写真のチャリの少年、ちょっとカメラ目線でしたが・・・気のせい??

私はちょっとこれから、会社探索してきます。むふふ

ミーハーの血が騒ぐ!!
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-26 16:59
>さやさん

>愛媛が「美しいひと」

これ、一緒に行ったカメラマンが教えてくれたんですよ。
バーの写真でタバコを持ってる彼。
司馬遼太郎とか歴史小説が好きで、色々に詳しくて面白かった。

>そういえばうちの高校は
>「上履き」ではなく「健康サンダル」でした。

…それはさやさんとこの高校生みんな、
校内ではサンダルを履いていたとゆーこと…?

…「ダル高」…?(←今作った)

Commented by shinobu_kaki at 2005-01-26 17:01
>kyonさん

>(「ヘル中」とは呼んでなかったけど)

僕も実は、実際に「ヘル中」と呼んでいたワケではなかったり。
アル中みたいですしね。

なんか、漫画で読んだ気がするんだよね。ヘル中。
なんだったかな。
「こちら埼玉山の上大学ボクシング部」かな。

…知ってる人いないだろうな…(寂)
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-26 17:03
>あいさん

グーはいやですね、グーは。

>ヘルメットと昼間なのに蛍光タスキ

拷問ですね。お察しいたします。

3歳の時の記憶って微妙ですよね。
僕は憶えていたかなあ。
Commented by さや at 2005-01-26 17:12 x
>…「ダル高」…?(←今作った)

そう!「ダル高」(笑)

近くの高校もダル高でした。神奈川にダル高が多いのかは謎?
急いでて脱げちゃうとよく蹴られました。みんなでそのまま走って蹴る蹴る!
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-26 17:14
>くろさん

この「オレンジの箱」といった感じのラフォーレ、
めちゃくちゃ浮いてました。
ちなみに向かいの角はスタバ。

写真にもある「LAFORET」のロゴのとこ、
なんというか、ちっちゃい銀色の金属の板で出来てるですよ。
で、風が吹くとそれらがしゃわしゃわって揺れて、
なんかロゴ自体がきらりんきらりんって(←子供か…)
伝わるかなあ。

kyonさんの話は強力でした。
それならヘル中もやむをえず…か。そうなのか。
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-26 17:27
>さやさん

>みんなでそのまま走って蹴る蹴る!

想像。


つるっ

しぱーっ(←脱げた)

「おらおらー!」

すぱーん(←蹴ってる)

つるー(←滑ってる)

すぱぁーん(←蹴ってる)

つるるー(←滑ってる)

がっ(←壁にバウンド)

すぱぁーん(←蹴ってる)

※以下、かなりエンドレスに繰り返し
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-26 17:46
>そしてりかたん

>ってそもそも出張ないし。日曜出勤はあるみたいだけど(><)

そのふたつはかなり違うと思うぞ(笑)

でもね、僕も出張って最近。
もともとインドア系の仕事だし、
あまり移動も人に会うこともない。

だからたまに出張とかで遠くに行くのが、
ちょっと楽しかったりするんだよね。
飛行機移動って疲れるし、
出張にでちゃうと仕事もたまるしアレなんだけど。

>チャリの少年

うん、右側の子に見つかったっぽいね(笑)
まあでも、からまれたりはしてないよ(笑)

>会社探索してきます。むふふ
>ミーハーの血が騒ぐ!!

出張より、こっちのがウラヤマシイぞアイドン!
Commented by umi_urimasu at 2005-01-26 20:08
松山、一度だけ行ったことあります。

こじんまりしていて、僕にとってはすごく魅惑的な街でした。
狭い路地裏がたくさんあって、路面電車がその間を縫うようにのんびり走ってて。人家と人家のすき間にホームがあって、ホームの幅が人ひとり分しかなかったり。

道後温泉は「千と千尋の神隠し」のモデルになった建物ですね。内部も古風な感じでしたが、入浴だけの客は上の階へは上がれない決まりだった。orz

機会があったらまた再訪したいところです。

ちなみに漱石の「坊ちゃん」も大好きな作品です。というか一生もののマスターピース。
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-26 21:16
>umi_urimasuさん

僕が今回意外に思ったのは、飲み屋の数が多いこと。
かなり分厚い範囲にわたって、飲み屋街が続いてました。

>入浴だけの客は上の階へは上がれない決まりだった。

風呂屋の2階…まさに昔の「湯屋」って感じですね。
風呂上がりに将棋打ったりするという。

漱石は面白いですよね。
なんというか、ウイットに富んだエンタメだと思う。
Commented by kuro at 2005-01-26 22:19 x
んー。

ふと気がつくと、
こっちにも履物系の話題が。


健康ラバ。 (でも頑固)

Commented by ユウイチロー at 2005-01-27 00:08 x
ヘル中シノブさんを想像してしまった。

あとラフォーレにも行ったんですね!!原宿の空気を感じましたか?


ヘル中、あと田舎の中学はジャージ登校しますよね?
ジャー中?
栃木に行ったとき見かけました。あれってなんなんですかね?制服は学校に入ってから着替える。
制服の意味あるの?と思うのだけど。校内でしか制服着ないって。
と思ってたらうちのスタッフも中学時代はジャージ着て登校してたらしい。(千葉の南房総出身)
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-27 01:30
>KUROさん

上記履物系、
まるでモスコミュール並みのキックだと思われます。
Commented by shinobu_kaki at 2005-01-27 01:34
>ユウイチローさん

ラフォーレ、
松山ののどかな町並みにいきなり原宿といった感じで(笑)
まあでも、ラフォーレのある場所が、
松山のまさに中心と呼ばれる場所ではありました。

ジャージ…うちは無かったかも。
なんで登校にジャージなんでしょう。わからない。
動きやすいから?不明ですね。
Commented by コウノ君 at 2007-12-20 08:29 x
確かに、ヘル中はすごい。北部中だけです。ノーヘルは!皆さんはご存知ですか?
Commented by shinobu_kaki at 2007-12-20 18:39
>コウノさん

ようこそ、ヘル中ブログへ。
ところで北部中ってどこでしょう…。
by shinobu_kaki | 2005-01-26 13:52 | チープ・トリップ | Trackback(1) | Comments(20)

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