「POP」トイウコト。

なぜか今、手塚治虫の「ブッダ」(愛蔵版)を読んでいる。

あまり時間がないので、帰りの電車の中で読むくらいなのだが、
「ブッダ」(愛蔵版)は分厚いため、かけるカバーが見当たらず、
回りの人には僕が「ブッダ」(愛蔵版)を読んでいるのがバレバレである。
平日の遅い電車で普通に読むには少々異質と言わなければならないが、
(今のところ「ナニ、この人」的目線で見られた自覚はない)、
読みはじめると止まらないのだから仕方がない。
個人的には「火の鳥」に及ばないと思うが、スケールの大きな名作である。

後にブッダ(目覚めた人という意味)となるシッダルタ王子だが、
子供の頃から聖人、というにはほど遠く言動に矛盾が見え隠れする。
親の政略に巻き込まれ、望まない結婚をしたために妻を愛すことができず、
すべてを捨てて出家を望む王子なのだが、
ある日妻に妊娠を告げられショックを受ける。
妊娠したということは、やるこたやってるってことなのだが、
王子はお腹の子供に「そんな子供には“ラーフラ”という名前でもつけるがいい」
と言って、結局は妻子を捨てて一人で国を飛びだしてしまう。
ちなみに「ラーフラ」とは「さまたげ」といった意味である。
日本で言えば「ウチの子供には“邪魔夫”と名付けよう」といった所か。
養育費だって振り込まないブッダ(目覚めた人という意味)は、
これは父親失格と言わなければならない。

それはいいとして、手塚治虫を読むといつも思うのは、
「人間くさい、あまりに人間くさい」キャラクター造形だ。
シッダルタ王子もそうだが、彼らは人生に苦悩し、分かれ道に逡巡し、
自らをとりまく矛盾に痛々しく打ちひしがれる。
ブラックジャックにしてからがそうだし、アトムだってそうだ。
前述の「火の鳥」などは「苦悩と矛盾の一大叙事詩」とでも言うべきもの。
ハッキリ言って手塚作品のキャラクターは、
ウジウジドロドロしているのである。

そんな手塚作品とは対極的な、
「POPの最高峰」赤塚不二夫がその直後に出てきているのは興味深い。
なお、藤子不二雄も十分に「POP」と言えると思う。
どういうことかと言うと、キャラクターに内面が無いのである。
もちろん、のび太はジャイアンに虐められて泣き帰ったりはするが、
そんなものは「人生の矛盾と苦悩」とは呼べないだろう。
そして、楽屋裏でため息をつくバカボンパパなど誰も見たくはない。

「POP」ということを分かりやすく言うと、
例えばTシャツにデザインとしてキャラクターを使った場合、
「恥ずかしくないデザイン記号」として有りうるかどうかである。
これは微妙な所なのだが、レレレのおじさんやニャロメ、
目玉のお巡りさんはデザインとしてクールだが、
リボンの騎士やジャングル大帝、アトムですらもちょっとキツイ。
途端に「子供服のキャラクター」となってしまうのである。
ドラえもんは使い方によるが、「ジャイアンTシャツ」ならPOPだと思う。
僕が20歳の頃に入った最初の会社の社長などは、
高価なエルメス製のネクタイをしていたが、
デザインが黒地にピンクのニャロメだったことを覚えている。

「POPかどうか」ということをもっと言うと、
「そのキャラクターに自意識を感じるかどうか」であるとも言える。
記号には、アイコンには、自分を省みる自意識など不要だからだ。
一切の反省や自省から解き放たれている、それはカリスマの条件でもある。
カリスマはPOPでなければならない。
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Tracked from 東京生活日和 at 2005-08-26 13:24
タイトル : 「トキワ荘」界隈と中華食堂「松葉」
 豊島区南長崎3丁目…かつてこの界隈には漫画家の聖地「トキワ荘」がありました。昭和28年ここに手塚治虫が引っ越してきます。しかし約2年住んだだけで雑司が谷の並木荘に引っ越します。その後トキワ荘には手塚治虫を慕って藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫というすごい顔ぶれも住んでいました。すでに「トキワ荘」は昭和57年に取り壊されて見ることはできませんが、まだこの界隈にはその当時の雰囲気を感じることができる建物やお店がいくつかあります。そのひとつが中華食堂「松葉」です。店頭には藤子不二雄Aの「まんが道」の1...... more
Commented by はむ at 2005-08-10 12:20 x
そういう意味ではさ、楳図かずおとかもすごい二面性だよね。
「ぐわし!」とかってアイコンとして成功したまことちゃんみたいなキャラクターを生み出しつつも、漂流教室みたいなのも書くじゃん。
あ、小林よしのりとかもかなぁ。
エリートだったレレレのおじさんの持つ悲しい過去とかのトリビアなんかを知ってると、まあどんなものにもどっちもの二面性はあるとは思うけど、まあどっちに比重があるかだろうね。
Commented by isshi~ at 2005-08-10 12:22 x
手塚治虫はカリスマではあれどPOPではない・・・と
しかしながら彼の自画像はギリでPOPといえる気がする。
自分を透過するときに“その”分かれ道がくるのかと。

ちなみに、いずこの社長もたいてい“じくじく”してますな。
Commented by キバヤシ at 2005-08-10 13:33 x
俺達はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない…
「手塚治虫ランド」がいつまでたっても完成しないのは、
「POP」じゃないから、だったんだーーーっ!

でも、「我王の因果応報マウンテン」なんてあったら…
乗ってみたい。

Commented by shinobu_kaki at 2005-08-10 14:40
>はも

楳図の漂流教室は良かったね。
絵はあのまんまで怖いんだけど(笑)
まことちゃんは、
実はホラーに分類される気もしないでもない。

レレレのおじさんの来歴、
なんかあったよねそういえば。
バカボンパパも元は頭良かったのに、
馬に蹴られてバカになったとかなんとか。

でも表象レベルの話で言うと、
まったく内面がないスバラシイ漫画だと思うバカボン。

ブッダ、継読中。いやあ、面白いや(笑)
Commented by shinobu_kaki at 2005-08-10 14:41
>いしーさん

「カリスマ(神的存在)」であることと、
「カリスマ性」があることとは違ったりしますよね。
手塚エピソードは人間くさくて好きでした。
大友克洋の絵の上手さに嫉妬した話とか。

社長…そうですか、なんかありました?(笑)
Commented by shinobu_kaki at 2005-08-10 14:43
>キバヤシさん

>「POP」じゃないから、だったんだーーーっ!

な、なんだってーーーっ!?

…やってみました(笑)

「火の鳥」は昔、ファミコンのソフトになりましたよね。
たしか「鳳凰編」と「宇宙編」。
でもどっちも自キャラが我王。なんでやねん。
Commented by シホ at 2005-08-10 18:50 x
ニャロメのネクタイなんてものあるのかー。

昔会社の上司が
(どちらかというと会社では窓際族に入るといえるキャラだった。)
ドナルドダックの顔模様がいっぱいのネクタイしてて、
「課長、そのネクタイかわいいっすね。」
と半分からかい気味に言ってみたら
「んー。そうか?いや、頂き物でね。」
とはにかんでたのがなんかドナルド以上に可愛く思えた事があった。
ディズニーランドのおみやげだったのか?アレは。笑
Commented by kuro at 2005-08-10 20:15 x
POPか否かを内面の有無ではかるのは面白いね。
デビルマン(漫画の方ね)とか、どうなんだろ。
思いっきり内面どろんどろんだけど、Tシャツにはなりそうな感じ。
というか、POPとはまた別ですな。あれは。

Tシャツといえば、
「酵素パワーのトップ」の「パッケージ能書Tシャツ」、
当地屋台でよく売ってます。
こないだ白人が着てるのを見て日本人が写真撮ってました。

でもって、手塚さんといえば、
前いた会社にひとつ上の先輩で、娘さんがいました。
数年で辞められましたが。

ウランちゃんそっくりで。


あ。虹が。
Commented by shinobu_kaki at 2005-08-10 20:54
>シホさん

怒鳴るど、いやドナルドもいいよね。
ディズニーキャラの中でも、
ヨーロッパで人気があるのはミッキーじゃなくてドナルドだって
聞いたことありますけどね。
プーさんは日本で人気だとか。
渋谷のディズニーショップも、1階がまるごとプーさんだし。

Commented by shinobu_kaki at 2005-08-10 21:00
>kuroさん

ああ、デビルマンはどうでしょうね。
Tシャツになりそう。
ていうか5年くらい前、
それこそ映画「デビルマン」にパクられた
漫画のロゴを作ってた頃、
読者プレゼント用にデビルマンのTシャツの
デザインをしたことが。

POP。
思いついたけど、ハクション大魔王はPOPだなあ。

手塚さん、息子さんは有名ですが、
ウランちゃんまでいたのですね。


ほう、虹。
Commented by kyon at 2005-08-10 23:11 x
>「そのキャラクターに自意識を感じるかどうか」であるとも言える。
うわーなるほど。。。。。凄いですね。スッキリ!

たしかに「手塚治虫ランド」で遊んだとしても
作品を知ってるとどこかじくじくしそうですね。

原作とか始まりはどうあれ、
「よく知らないけどなんかカッコイイ」っていう人が増えると
POPに変わっていくということもあるかも。

キャラクターへの愛とグッズと気恥ずかしさの関係といえば
(そんな話題じゃないか…)
こんなボールペンをロフトの文具売場で見て興味深かったです。
http://livedoorshop.depart.livedoor.com/item_detail?id=1331136&tenant_category_id=273
Commented by shinobu_kaki at 2005-08-11 11:39
>kyonさん

>こんなボールペン

このくらい抑揚が効いていれば、
恥ずかしくないよなあ。
「やっちゃった」なのは、これに顔つけちゃうタイプね。

by shinobu_kaki | 2005-08-10 12:00 | shinoBOOKS | Trackback(1) | Comments(12)

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