トレインマン

「電車男」の話題は、口にするには少々「今さら感」がある。
二次使用・三次使用を経て、ネタとしては使い古しの域だろう。
会社の同僚は、そんな気恥ずかしさとでも言うべきニュアンスを、
「トレインマン」と英訳して中和していた。
あの名作「レインマン」と一字違いなのが可笑しい。

「レインマン」は1988年の映画で、監督はバリー・レビンソン。
俳優は、言わずと知れたダスティン・ホフマンとトム・クルーズだ。
ダスティンは自閉症で施設に保護された兄を演じ、
トムは私欲に満ちたやり手のカーディーラーの弟を演じる。
アカデミー作品賞、監督賞、主演男優賞、オリジナル脚本賞に輝き、
押しも押されもせぬ名作と呼んでさしつかえない。

ちなみに「主演」男優賞はダスティン・ホフマンだったが、
ストーリーラインに照らすとこの映画の主役は間違いなくトム・クルーズで、
いくらキャリアと才能による圧倒的な演技力を披露したとしても、
(しかもアカデミーの好きそうな障害を持った役柄であるところの)、
ダスティン・ホフマン演じるレイモンドは主役とは呼べないはずである。
描かれている心象風景は弟役のトムのものだし、
作品を通して成長するのもまた、トム演じる弟チャーリーに他ならない。
アメリカでは、主役と主演は同一の意味ではないのだろうか?

僕はこの映画が大好きで、DVDも持っているし、サントラも持っていた。
「レインマン」はいわゆるロードムービーだ。
ロードムービーとは、主人公達がある場所からある場所へと移動する映画。
「映画は2種類しかない。穴に落ちた男がはいあがる話と、
穴に落ちた男がそのまま死ぬ話だ」といった人がいたが、
ロードムービーは、その移動している最中に何かが起きるというのが基本だ。
もしくは、移動そのものに大きな意味があるのだ。
ロードムービーは観客を、文字通りショート・トリップへといざなってくれる。
映画の存在意義、本質がそこにある。

自閉症の兄・レイモンドは、箱から落ちた大量のマッチの数を、
瞬時に数えられるといった抜群の記憶力で(フラッシュ・メモリー!)、
ラスベガスでカジノのカードを覚えて大儲けする。
非常に官能的でエキサイティングなシーンである。

しかし、この映画のクライマックスはそこではない。
静かではあるが、とあるモーテルで、チャーリーが幼き日の記憶を取り戻し、
自閉症の兄とわずかではあるが心を通わせる瞬間。
この穏やかなシークエンスこそがこの映画の山場であろう。
無頼漢チャーリーが愛すべき弟へと変化していく、
この演出こそは見事と言わなければならない。

チャーリーは変わったが、レイモンドはしかし、一貫して変わらない。
彼はストレンジャーのまま結局施設に戻っていく。
映画は、レイモンドの乗った列車を見送るチャーリーの姿で終わる。

レインマン(レイモンド)は成長しない。
ストレンジャーはストレンジャーのまま、弟の前から消え去っていく。
しかしトレインマン、つまり「電車男」はちょっとした成長物語、
いわばちょっとした現代のフェアリー・テイルと言えるからこそ、
ムーブメントとしてこれほどの拡大を見せたのではないだろうか。
…なーんて、心にもないことを書いちゃったりしてね。

ハリウッドを始め、映画界はマンガや小説のリメイクが目立つ。
すでにある「出来上がった物語」を使い回しているわけで、それは、
「新しくて普遍性のあるストーリー」が生み出されていないということだろうか。
もっとも最近観た映画(DVD)は、イーサン・ホークの「大いなる遺産」。
カメラこそ素晴らしく美しかったが、これも古い映画のリメイクなのだった。
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Commented by ぴれ at 2005-08-13 18:18 x
私も大好きでDVDもってる。
何度も見たよ。なんだかすきなんだよね。
Commented by さやぱ at 2005-08-15 14:39 x
私も大好き。なんど見たんだろう。レインマン。
旦那が見たことないと言うので買ってしまったもんね。かこつけて。
Commented by shinobu_kaki at 2005-08-15 17:29
>ぴれいんまん

シーンとしては、車で橋を渡るとこが好き。
レイモンドのキョロキョロした目線で、
橋の上のほうを見上げたりして。
Commented by shinobu_kaki at 2005-08-15 17:31
>さやぱんまん

結構昔の名作だから、安く出たりしてるのかな?今は。
パッケージの、二人が歩いてるシーン、
映画本編と左右逆なんだよね。
デザインアングル的にそうしたらしいけど、面白いね。
Commented by さやぱんち at 2005-08-15 17:47 x
そうそう安く出てましたよ。

>映画本編と左右逆なんだよね。

それは気がつかなかった。
オペラ座の怪人の仮面が本編とパンフレットでは逆なのは気が付いていたけど。
Commented by shinobu_kaki at 2005-08-16 10:48
>ちやぱそさ

オペラ座、ファントムの仮面が逆だったよね(笑)
あれはいいのか!と思ったな。
by shinobu_kaki | 2005-08-13 00:36 | 人生は映画とともに | Trackback | Comments(6)

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