打楽器革命

 オーケストラってあるでしょ。あのオーケストラっていうのはヨーロッパが帝国主義で拡大していく過程と合わさって拡大していってんの。
 もともと楽器っていうのは全部イデオロギーを持ってんだよ。例えばトランペットとティンパニーというのは王様に付属するものだったわけ。ロイヤル・インスツルメント。要するにパンパカパーンって王様が入ってくるから、つまりトランペット吹きというのは絶対いたわけだよ、王様と一緒に。それから時を告げるとか、「これからだ〜」とかいう、ティンパニーみたいなもの、それはもう王様付きでいるわけ。それに対してヴァイオリンとかの弦楽器というのは違うわけね。
 だから極端に言うと、オーケストラの中には戦争と平和の両方が入っているわけよ。戦争と平和の両方を入れたのがいわゆる近代のオーケストラになるわけ。ところが、それが拡大していく。つまり弦の数が増えるとかっていうふうにして拡大していくでしょ。木管も金管も増えていくでしょ。それで、いちばん重大な変化は打楽器なんだよ。打楽器が増えていくのね。
 最初に入ってくるのはトルコのなんだよ。トルコっていうのは十六世紀、十七世紀、十八世紀の段階で言えば、ちょうど二十世紀のソ連みたいだったわけよ。つまり未知の国だった。(中略)
 でね、それがオーケストラにも入るわけ。トルコから来た楽器が入ってくる、どんどん。それがまた打楽器として入ってくるわけ。「のど自慢」の成績を告げるようなカネの音を出す楽器とか、いっぱいあるじゃない。ああいうのはもともとトルコから来た楽器なんだ。それが増えるわけね。それでヨーロッパの植民地が拡大していく過程、つまりアフリカを占領したり南アメリカを占領したりして拡大していく過程で、その土地その土地の、主には打楽器を奪って持ってくる。
 だからね、オーケストラの中でいうと打楽器奏者っていうのは軽蔑されてるの。つまりトップが弦で、その次が木管で、その次が金管でっていうふうに、ヒエラルキーがあるんだ、オーケストラの中には。そのヒエラルキーの下のほうの部分、つまり打楽器に相当する部分というのはいちばん抑圧されているとこだったわけよね。
 なぜかっていうとね、シンコペーションがないのよ、一般に。つまりリズムを打つ楽器だった。ただ単にタンタカタンタカってやってるだけだから、これはアホでもできるっていうふうなことだったわけ。ところが、ようやく二十世紀になって打楽器革命っていうのが起こるのね。「いや、違う、冗談じゃない、リズム云々とかじゃなくて、打楽器自体で音楽できるんだ」というふうにやるのがストラヴィンスキーとかバルトークとかなんだよ。ストラヴィンスキーのあたりからダアーッと打楽器革命というのは起こってくる。だから例えば「春の祭典」って、とってもリズム変でしょ。ああいうふうになってくるわけ。あるところで逆転する。ちょうどヨーロッパの政治の歴史とオーケストラの流れというのは、明らかにパラレルになってる。

三浦雅士(評論家)



ちょっと出典が古いですが(1991年)、面白かったので。
楽器やれっつったらストリングスも素敵ですが、
個人的にはやっぱりピアノに憧れます。
トラックバックURL : http://kakiwo.exblog.jp/tb/2307449
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by mk-happyman at 2005-10-12 06:40
ふむー。そんなヒエラルキーが存在したとは…。
クラシック好きな私ですが、初めて知りました。

全く話は別ですが「チャンポン」の語源の話を思い出しました。
「チャン」とはお祭りなど使われる大衆的な「鍾」の音を表し、
「ポン」とは宮中で使われる雅な「鼓」の音を表したもの。
この決して一緒に奏でられることのない、全く異質なものを
一緒に演奏するさま(雅なものも下世話なものも十派一絡げ)を
「チャンポン」というようになったとか。
まさに楽器のヒエラルキー。

知られざるヒエラルキーってちょっと面白いですよね。
「外科医より内科医の方が医者の中のヒエラルキーが上」とかさ。
Commented by のこのこ at 2005-10-12 12:20 x
むむ。ヒエラルキーって言葉の意味がわからねー。(誰か教えて~←調べる気もない・ぺこり)

オーケストラかぁ。 打楽器奏者はたしかに軽んじられてるかも。つかまぁあの~それぞれの楽器やってる人の気質ってのがあってね、「オーケストラ占い」とか作ったらおもろいよ。私はずっとやってたホルンに憧れるな。普段温和でココゾと言う時にウルトラ目立ちたがり。 シノブさんはトロンボーンとかね。温和だけど実は結構我が強く、独創的且つ細かいとこ気にする職人気質でもアリ、みたいな。
基本的にオーケストラで打楽器やる人なんてのはもともと裏方志向で気がやさしくて力持ち、ココゾで一発当ててキモチイー、みたいな。

しかしこの時代のトルコを大胆にも「未知の世界」とか言う中世ヨーロッパの田舎っぷり。その頃の中東なんてもう・・・(以下省略)
Commented by shinobu_kaki at 2005-10-12 23:46
>mkはん

チャンポン、知らんかたです。
あれですな、「チンドン屋」的ですな。
Commented by shinobu_kaki at 2005-10-12 23:48
>のこのこさん

ひえらる。えっと、順列的な意味ですな。
おいらトロンボーンですか。セキグチさんもトロンボーンでしたね。えへへ。

トルコ…オスマントルコとか、個人的にもちょっと未知なので、
これからいろいろと勉強したいとおもっちょります。
by shinobu_kaki | 2005-10-12 01:49 | 言葉は踊る。 | Trackback | Comments(4)

移動祝祭日


by Shinobu_kaki
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31