春宵一刻値千金

時は春、/日は朝、
朝は七時、片岡に露みちて、
揚雲雀なのりいで、/蝸牛枝に這ひ、
神、そらに知ろしめす。/なべて世は事も無し。

ロバート・ブラウニング「ピパの歌」



この歌の最後、
「なべて世は事も無し」というセンテンスだけが記憶にあって、
てっきり日本人の作かと思っていました。
ちなみに上記の訳は「山のあなた」で有名な上田敏、
最初に触れたのが上田クレジットであるゆえの僕の思い込みだったかもしれない。
ロバート・ブラウニングだからイギリス人の作だったんですね。

桜の季節が近い。
春の歌というのは古来よりたくさんある。

春宵一刻値千金/花に清香有り月に陰有り
蘇軾「春夜」

確かに春は一瞬である。「春宵一刻値千金」というのがいい。
特に桜の季節というのは実質一週間ほどしかない。
しかしその一週間にかける日本人の圧倒的テンション、
さらに桜の散る間際の怖いほどの迫力というのは、
他の花とはとうてい比較できない。
「花見」って「祭り」だよね。


世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
在原業平 

とかね。
桜ってエキサイティングなんですよ、日本人にとって。きっと。


あとはあまりにも有名な、

春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、
むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。
清少納言「枕草子」

みたいなのもあったり。

なんというか、春って一日の中でいうと「寝起き」っぽい。
あたたかくて、ぽかぽかとしていて、
ちょっと夢だかうつつだか分からないところがある。


野田秀樹が「贋作」と銘打ち戯曲化(アレンジ)もした、
坂口安吾の代表作「桜の花の満開の下」。

桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。
あるいは「孤独」というものであったかも知れません。
なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。
彼自らが孤独自体でありました。彼は始めて四方を見廻しました。
頭上に花がありました。その下にひっそりと無限の虚空が満ちていました。
ひそひそと花が降ります。それだけのことです。
外には何の秘密もないのでした。


桜、とくに夜桜というのは不気味なほどに奇麗で、
どことなく「死」とかそういうものを感じさせる。
そんな花は桜だけである。


秋も好きだが、春も好きだ。
夏はちょっと違う。「真っ最中」という感じで、無闇にテンションがあがる。
冬だけが嫌いだ。


ところで冒頭のブラウニングの歌の原文は、

The year's at the spring,
And day's at the morn;
Morning's at seven;
The hill-side's dew-pearl'd;
The lark's on the wing;
The snail's on the thorn;
God's in His heaven--
All's right with the world !

である。
はっきりと韻を踏んでいるのがわかる。
日本語訳って難しいと思うのは、
こうした、英語の「言葉遊び」的な部分を日本語でどこまで踏襲できるか。
もともと言葉の成り立ちが違うのだから、
「音」を合わせるというのは常に困難を極める。

そこでいうと、好みは別として、
個人的に「よくやったよなあ」と思うのはこれである。
「INTEL INSIDE」という英文スローガンに対する訳。

「インテル、入ってる」

「IN」のほうで韻を踏んでいたはずなのに、
むしろ後半でそれを実現している。
そして意味としてはしっかり通っている。

なんというか、とんちの効いた逸品である。


春から話題がずれた。
ともかく。

あなたはこの春、桜を見に行きますか?
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Commented by colorcube at 2006-03-06 10:04
春はいいですね?車が欲しくなる季節です(爆)
Commented by shinobu_kaki at 2006-03-06 10:10
>colorcubeさま

僕は免許がほしく…あまりないかも(笑)
自転車派なのですよ。
Commented at 2006-03-06 20:43 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by shinobu_kaki at 2006-03-06 21:53
>鍵様

了解しましたよ。
Commented at 2006-03-07 00:50 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by shinobu_kaki at 2006-03-07 07:31
>鍵さま

おや。
最後の一行…ということは?
by shinobu_kaki | 2006-03-05 22:27 | 言葉は踊る。 | Trackback | Comments(6)

移動祝祭日


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