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村上もとか「龍―RON―」がいよいよ最終回です。

今日はビッグコミックオリジナルの発売日。
村上もとか「龍―RON―」がいよいよ来週で最終回を迎える。
なんと1991年から(約15年!)という長期連載だった。

村上もとかは非常に丁寧な漫画を描く人である。
とても綿密に取材をしているのだろうな、と思わせる。
「龍―RON―」は京都・祇園の武道専門学校における修行時代から始まり、
次第にアジア全土を背景とした壮大な大河ロマンへと広がっていった。
主人公である押小路龍はそのバイタリティゆえに時代の奔流に押し流され、
妻・田鶴ていとともに(というかそれぞれ)、数奇な運命をたどることになる。

非常にスケールの大きい野心的な作品で、
今のところ村上もとかの代表作と呼べるだろうけれども、
ちょっと映画化は難しいだろうと思う。
なぜなら、すでにこの「龍―RON―」が、
さまざまな映画作品などのオマージュによって成り立っているからである。
(これに似た話は以前にも書いた)。

「ラスト・エンペラー」「覇王別姫~さらばわが愛~」などの
すでにある名作の題材を次々とストーリーに組み込み、
映画監督山中貞雄の晩年のエピソードと人間関係も“引用”している。
ちょっとした「つぎはぎインスパイア」という印象だ。
もちろんすべて、確信をもっての引用というのは明らかだし、
それが悪いとかそういう話ではない。
元ネタを考えると映画化はちょっと難しいだろうということだ。
ちなみに女性映画監督・田鶴ていのモデルは、
作中と同じ満映に所属していた坂根田鶴子と言われている。
(名前を見れば間違いなさそうである)。

太平洋戦争当時の満州が後半の主な舞台となっており、
ということは甘粕正彦や石原莞爾は欠かせない。
特に甘粕は、かなりキーになる人物として登場し活躍する。
こうした歴史上の実在の人物とのリンクもこの漫画の醍醐味だ。
(ちなみに石原莞爾のキャラクター造形については、
森田信吾の「栄光なき天才たち・満鉄超特急あじあ」の石原莞爾像に
比類するものはないと個人的には思う。これはすごい。必見である)

村上もとかの描くキャラクターは、
なんというかとてもクリーンで爽やかであるが、破綻が少ない。
例えば泣き崩れるシーンでも「崩れない」のである。
つまり、意外に人物の描写について矛盾というか深みがない。
実はマッチョな作家なのだ。
そういった意味でもこの「龍―RON―」のような大河モノは、
作者の属性に合っている気がする。
叙情よりも叙事、心理描写よりも事実のダイナミックな動きでもって、
世界を語る、ドラマを作っていく漫画家なのかもしれない。

ともかく「龍―RON―」はサービス精神にあふれた、
まるで3時間半の長尺映画のような漫画作品であった。
満足度が高い。おなか一杯になれる。
それにしても15年はすごい。偉業だと思う。
惜しみなき賛辞を送りたい。
by shinobu_kaki | 2006-05-02 11:19 | shinoBOOKS

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