映画「ゆれる」インタビュー

※めっちゃネタバレです。ご注意!

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まずは一言。
 「狭かったです」

…は?
 「劇場が。渋谷の『アミューズCQN』で観て来たのですが、
 初めて行く映画館でした、小さなシネコンというか、
 こじんまりとしたシアターが3つ併設された映画館で、
 中でも『ゆれる』を上映したシアターはなんと60席だったのです、
 これではすぐに満席になるだろうと思いました」

これからはこういった形式の上映館が増えるでしょうけどね。
で、映画「ゆれる」はどうでしたか?

 「うーん、くろさんからの事前情報や、みかちのレビューなどを読むにつけ、
 これは身につまされるだろうと思って観たわけですけれども、
 やはり非常に身につまされました、映画を観た以上の感慨があった」

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やはり、兄弟のいらっしゃるシノブさんにとって、
兄弟もの作品というのはかなり響くものがある、と?

 「いえ、まあそれもそうですけど、…ちょっと整理しますが、
 この映画には大きな軸が2つあると思うのですが、
 ひとつはもちろん兄弟の対比ですよね、こちらがメインテーマです、
 もうひとつは田舎と東京という生活圏の対比、これの印象が強かった」

田舎の閉鎖的な空間に閉じ込められた兄、ということですか?
 「劇中にもはっきりと兄の口から『監獄のようだ』と語られていますけどね、
 田舎というのは、これは経験から言うのですけど、やはり恐ろしく閉鎖的です」

閉鎖的、というのをもう少し詳しく。
 「なんというか、新しいものや刺激が求められていないのです、
 日常はとにかく変わらずに過ぎて行くべきものであって、
 先の見えた安定というのが良しとされる土壌が強烈にある、
 これはつまり、退屈でつまらない未来が見えてしまうということで、
 未来に希望を持ちたい若者にとっては単純に堪え難いものです、
 単純に可能性、つまり人生の選択肢が限られすぎている」

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被害者となる幼なじみの女の子も、東京へ出たいと言うことを口にします。
 「いやあ、リアルな感情だと思いますよ、正常な感覚だと思いますけどね、
 もともと人間の脳というのは刺激を求めるように出来ているんです、
 そりゃあ色々考えてしまうと思いますよ、そんな暮らしに耐えるには、
 ある種の空虚さを身にまとうしかないのではないでしょうか、
 分かりやすく言うと『あきらめる』ということですけど、
 伊武雅刀演じる父親ですが、彼は見事に空虚で田舎の家長的な人でしたよ、
 何かあるとすぐに小さい権力を振りかざして怒鳴る、あれです」

キャストはどうでしたか。
 「何と言っても香川照之ですね、私は怖かったですよ」

怖かった?
 「あの兄は、主に前半でしたけれど、
 ちょっとしたモンスターに見えました、
 モンスターというか、笑顔の下で何を考えているのかわからなくて、
 普段制御している部分が時折爆発という形で顔を出すところが。
 ひたすら自分を殺して生きて来た人は怖いですよ、
 面会室でオダギリ演じる弟に対して突然キレるくだりがありますが、
 あのキレる理由とキレ方が非常にリアルで、とても良かった」

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マジメ一辺倒できた人間の怖さというか。
 「抑圧された人間は怖いものです、ストレスの恐ろしさは計り知れません、
 あと、この作品のすべての開始点、つまり吊り橋のシークエンスですが、
 あの女の子が兄の差しのべた手を拒絶しますね、
 確かにあの兄の動きは女性にとってキモいものがあったかもしれませんが、
 もともと彼女は兄に好意を寄せてはいなかった、
 田舎に迎合することを選んで生きている兄を拒絶した彼女は、
 兄だけでなく同じように田舎で埋もれようとしている自分を拒絶したのです、
 彼女の前に存在する2人の男性、すなわちあの早川兄弟は、
 残酷なほど鮮やかなコントラストとして彼女に映ったのだと思いますよ」

キム兄も熱演でした。
 「女性に対するアタックに関する尋問のくだりですが、
 辺見えみりとの件がありますから、
 彼のリアルな部分と重なっておかしかった、
 しかし検事に彼というのがなんともミスマッチで良かったのかもしれません、
 是枝映画『誰も知らない』にも彼はタクシーの運転手として出てきますが、
 あの時は『…マジで』とぼそっと話すくらいで長いセリフなどなかった、
 それが今回は検事ですらからね、長セリフもちゃんとある、
 異様な存在感がありましたね、良いのか悪いのか分かりませんが」

クライマックスはやはり、オダギリ演じる弟の証言でしょうか。
 「考えてみれば、すべて弟がコトの引金になっているんですね、
 たとえば吊り橋の事件に関しても、
 彼女を介しての兄の弟への嫉妬があったわけだし、
 この話において落とし前をつけるのは弟でなくてはなりません、
 そうでないと、映画を終わらせることができないのです」

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映画のキャッチコピーである、
「あの橋を渡るまでは兄弟でした」についてですが。

 言葉を素直に受け取るとすれば、
 『あの橋を渡ってしまってから私たちは兄弟と呼べる関係ではなくなりました』
 となるわけですが、嫉妬や裏切りにまみれて、
 法廷で争う最悪の関係になってしまったとしても、2人はやはり兄弟でした、
 だいたいあの光景を目撃してからずっと、
 弟は兄をかばおうと無言を貫いてきたわけですからね、
 それは兄を助けようというスタンスにほかなりません、
 もちろんそこには保身の感情もあったわけですけどね」

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弟であるオダギリの心の「ゆれ」が映画のキモ、だと。
 そして虚偽と真実との間のゆれ、でしょうか、
 あと、これは改めて思うのですが、
 法廷での最後の証言で、弟は兄を裏切った形になります、
 しかし兄は弟の秘密、女の子との事件前夜の事実を感づいていながら、 
 それについては何も言いません、兄は弟を当事者にすることなく、
 自分一人ですべてをかぶろうとしたフシがあります、
 ですから『兄はやはり兄だった』ということではないでしょうか、
 幼い日のフィルムに刻まれた、弟の手を引く兄、
 いくら大きくなって人生の華やかさにおいて差が生まれたとしても、
 どれだけ嫉妬や羨望などの醜い感情にさらされて、
 2人の仲がいびつなものになったとしても、
 『兄はやはり兄だった』ということが結論だったのかもしれないですね、
 兄というのは、有形無形に弟を守るというか、
 いつも兄がちょっとだけ損をしてあげるものなんですよ」

そういえばシノブさんも兄でしたね。
 「まあ、一応…という感じですが(笑)
 そういった意味では、兄失格かもしれないですね。
 良き兄であろうとも思いませんけど。
 兄弟はホント難しいですよ」

兄弟の付き合い方の秘訣ってあると思います?
 「ある程度ほっとくことですかね。…おそらく、ですが。
 でも、説得力はありませんね(笑)」


『ゆれる』
原案・脚本・監督:西川美和
出演:オダギリジョー/香川照之
伊武雅刀/新井浩文/真木よう子
木村祐一/ピエール瀧/田口トモロヲ/蟹江敬三
上映時間:119 分
製作年/国:2006/日本
配給:シネカノン
公式サイト:http://www.yureru.com
渋谷アミューズCQN、新宿武蔵野館ほか

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Tracked from VIVA!ちどりあし at 2006-08-27 13:30
タイトル : 最近、兄弟と言葉を交わしましたか?「ゆれる」
あの橋を渡るまでは兄弟でした── その独特のセンスに一目置くくろさんから、「すごくいいよ」と薦められたのは先月のこと。 「大作じゃないし」と侮って行ったら既に満席だったりで、本日ようやく観ることが出来た。 オダジョー×香川照之の「ゆれる」。 <s...... more
Tracked from 空想俳人日記 at 2006-09-02 15:15
タイトル : ゆれる
ゆうらリと こころゆらゆら たまゆらの   ゆれた。何が。心が。どうして。「ゆれる」を観たから。私たちは、毎日吊り橋を渡っているようなものかもしれない。あるいは、吊り橋を渡ってきた記憶が私たちの一人一人の人生をつないでいるのかもしれない。切なく、そう実感さ... more
Commented by kuro at 2006-08-27 13:07 x
60席?
あれ、じゃぁ狭いハコに移されちゃったのかな…
観たときはもう少し広いとこだったと思う。
というか、わざわざ狭いとこに移すことなかろうに。好評なんだし。

なんか親の代の状況まで含めていろいろ考えちゃったですよ。
兄弟軸とエリア差軸。
映画の中でも、伊武と蟹江の関係にも映し出されますが。

なんとも残る映画、というか、
32歳にして、か、だからこそ、なのかはあれですけど、
原案・脚本・監督の西川氏、これからが楽しみです。
Commented by みかち at 2006-08-27 13:28 x
あたしも本当は渋谷で見る予定だったんだけれど、
諸所の事情から新宿になってね。
同じくらい、小さなハコだった。
CQNは行ったことが無かったから行ってみたかったんだけどな。
やっぱりそんなちっちゃなトコだったんだ。

私のトコに書いてくれた、くろさんのコメントでも思ったんだけれど、
東京で生まれ、東京という土地しか知らず育ったあたしには
「都会と田舎」という対比がまったくピンと来ないんだよ。

まったくね。
どんなもんだろうと、想像くらいはつくけれども
リアルな感情として捉えることが出来ない。

これは問題だ、と自分でそら恐ろしくなっちゃったよ。
まして、これから人の心の闇を晴らす職業に就こうと少しでも考えている身なのに、
そこを理解することが出来ない。

だから、映画を見ることによって
こうやって他人の人生をなぞったり、疑似体験することはとっても大切なんだよね。


兄はちょっと損をしてあげる存在かぁ。

よくも悪くも、それが嬉しいか嬉しくないかは別として
私にはあなたもしっかり「兄」に見えますよ。
Commented by のこのこ at 2006-08-27 13:49 x
みかちのレビューをよんでえらく観たくなったけど、シノブレビューを読んだら観たくなくなったな。(ヤバイ。これ、って辛口発言か?)
それだけシノブ氏のほうがリアルに身につまされたってことなんでしょう。

ワタシは都会では生きていけず、田舎を選んだ田舎万歳人間なので、田舎が可能性を摘んでしまう息の詰まる場所、という感覚が全く理解できず、逆に都会にいると息が詰まって仕方ない。
ワタシにとって田舎とは自由で開放的で愛のあふれる生活ができる場所であると、ついつい思ってしまうのですが、 それは「そこそこ田舎」という土地柄に住んでるラッキーなのかとも思ったり。

ワタシには兄がいますが、同姓の兄弟ってのは想像つかないんですよね。兄はワタシをかわいがってくれますが。

結局やっぱり観にいきたいな。どちらにしても今は観にいけない身なんだけどさ。
Commented by shinobu_kaki at 2006-08-27 14:36
>くろさん

別の箱では、あだち充原作の「ラフ」が盛況でした(笑)

くろさん言うように、すごく面白かった。
田舎の「どこにも行けない感じ」がよく出ていたと思うし。
そうそう、親父も兄弟でね。
あそこはケンカしても、次の日の朝にはけろっとできる関係性がある。

監督、プレスへの露出も多かったのね。
まあルックスもいいしね。
Commented by shinobu_kaki at 2006-08-27 14:41
>みかち

さっそく観て来たわけだけど、自分にとって色々がリアルで、
単純に「面白かった」とはまた違う、ひんやりするものもあったですよ。

>「都会と田舎」という対比がまったくピンと来ないんだよ。

や、職業的なアレはあるにしても、
逆に僕なんかはずっと東京で生まれ育った人のリアルがわからない。
他人の人生を体験することは絶対にできないわけだから、
そこは想像力の範疇になるのでしょう。
そこに関しては、あなたくらい想像力があれば…とは思うけどね。

>私にはあなたもしっかり「兄」に見えますよ。

あまり言われないから、嬉しいね(笑)
だいたいいつも、姉のいる弟、というふうに見られるから。
Commented by shinobu_kaki at 2006-08-27 14:49
>のこさん

いえいえ、それが多種多様で面白い(笑)
僕は観た後、ちょっと薄暗いものを感じたわけなので、
あまりポジティブに見えないレビューになったと思います。
そういう意味で「観たくなくなった」は褒め言葉(?)なのかもね。

>ワタシにとって田舎とは
>自由で開放的で愛のあふれる生活ができる場所である

これはねえ…きっと幸せなケースなんだと思いますよ。
もちろん、田舎の人がみんな辛くて寂しくて我慢している、
なんて思っちゃいませんが、
自殺率全国ナンバーワンの秋田出身者としては(笑)、
田舎のどうしようもない閉塞感もよく理解できるつもりでいる。

逆に、のこさんの場合はある意味「個人の意識として自立している」からこそ、
環境のネガティブさから自由でいられるんじゃないのかなあ。
「どこにいても、私は私」と思っているでしょ?(笑)
都会だろうが田舎だろうが、一番いい場所ってやっぱりどこにもなくて、
どっかしら不満や閉塞感や何やかやはついてまわる。
そんな環境に対して、どういうスタンスで付き合うのかってことかなと。
だから、のこさんは住んでいる場所に対して、
とてもよい関係性を築けているのではないかと、ちょっと羨ましいわけです。


それにしても、
やっぱり映画に限らず、作品って鏡だね。
観る人の状態や意識によって、受け取り方が如実に変わる。
面白いね。
by shinobu_kaki | 2006-08-26 23:07 | 人生は映画とともに | Trackback(2) | Comments(6)

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