「火の鳥」そして「天皇と日本の起源」。

手塚治虫の名作「火の鳥」の一連の作品のうち、
もっとも素晴らしいのは我王の活躍する「鳳凰編」、
もっとも面白いのは「太陽編」だと個人的には思う。

「太陽編」は千年の時を隔てた2つの物語がパラレルに進行する。
一つは百済から飛鳥時代の日本に流れ着いた少年が、
戦のさなかに狼の仮面(皮)をかぶらされ、
やがて壬申の乱に巻き込まれていくという話。
もう一つは21世紀の日本が舞台で、
光一族と地下(シャドウ)に二極化された世界、
シャドウの腕利き工作員として生きる少年の話である。
この2つの話が物語のラストに向けて1つに収束していく。
村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」的に。

個人的にはこの未来のほうの話よりも、
飛鳥時代の話のほうが格段に面白く、また良くできていると思う。
さらに言うなら、この時代の日本、
つまり飛鳥から壬申の乱の時代というのは、
その歴史自体がすでにダイナミックで「かなり面白い」のである。
火の鳥「太陽編」が面白いのもむべなるかな、というわけだ。

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遠山美都男「天皇と日本の起源」は、
ちょうどその飛鳥から壬申の乱あたりまでの時代をカバーした本である。
突然歴史に登場した豪族・蘇我氏から推古女帝と聖徳太子、
舒明・皇極時代から近江の天智帝、天武天皇まで。
7世紀は文献も乏しく、「日本書紀」にそのほとんどが委ねられる。
今と明らかに違う文化様式。飛鳥は歴史と言うより伝説・神話的な時代とも感じる。
後の天武天皇こと大海人皇子の深謀は見事の一言で、
「日本(日の本)」という言葉や「天皇」という言葉は彼が創ったとも言われる。
この時代のみならず、日本の歴史においても明らかに、
大きなターニングポイントとなった時期なのである。

手塚治虫の話に戻るが、彼の膨大な作品の中でも、
特に歴史物に関して、イキイキとペンが走っているような気がする。
戦争の瓦礫の中で「これからは誰にも邪魔をされずに漫画を描いてやる」
と誓ったという彼のエピソードがあるが、
現代に比べてエンターテイメントの種類が非常に限られた時代、
大阪は宝塚に生を受けた手塚治虫は、映画はもとより舞台が特に好きだったようだ。
彼の漫画作品には時折、舞台的ケレン味を覚える描写があるが、
それは彼の遍歴・ルーツをなくしては語れないものだろう。
そんなケレンの部分が、歴史物という題材とぴったりハマるのではないか。
逆に手塚は、現代的リアリティのある作品に関してはあまりマッチしない。
つまり漫画というジャンルにおいて、
「リアル」ではなく「ファンタジー」の部分に、
漫画家・手塚治虫の生き場があったように思う。
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