2007年 08月 20日
森博嗣「天才の共通項」
天才というか、「超一流の仕事人」について、と言うべきか。
ちょっと引用させてください。
これまで、いろいろな分野で天才あるいは達人と呼ばれる人たちにお会いしてきたが、ほぼ共通していることに気づいた。それは、「自分よりも上手い人間は沢山いる。とてもかなわない」と口にすることだ。これは謙遜ではなく、正直に感じているところだろう。劣等感とまではいかないまでも、優越感を持つようなところへはまったく到達できない、という気持ちが、なんらかの新しい道を彼らに思いつかせるようだ。自分にしかないものを強く求めるベクトルが、ここで生じる。もし、彼らがその分野で客観的にも主観的にもトップクラスの技術を持っていたら、現れなかった方向性かもしれない。オリジナリティとは、このように、ある種のストレス(あるいは諦め)から吹き出もののように突然生まれるものかもしれない、と感じる。
もう1つ重要なことは、他の才能との差異に敏感であるのに、けっして排除しないことだ。「あれはね、僕が目指すものとは明らかに違う。でも、面白いよね」と彼らは言う。おそらく、こうした広い視野や柔軟な視点を持っていることが、第2の条件だと思う。認めるのではなく、なにものも嫌わない、したがっていつでもどこへでも向かえる、という姿勢だ。
こういう人たちはつまり、自信があるということではないだろうか。
俗に言う「自信」とは、自分が他人より優れていると思うことではない。
自分はここまではできるが、ここからはできないというような、
自分自身の座標をしっかり認識している人が、
いわゆる「自信のある人」なのではないかと思う。
つまりそこには諦念は含まれてよいのである。
いつの時代にも全能な人など存在しなかったのだから、
誰もがどこかで挫折または挫折のようなものを味わうはずなのだ。
そこを通過した上で、どのように行くかというのが大事なのである。