中島らも、チチ松村「らもチチ わたしの半生(中年編)」

中島らも、チチ松村「らもチチ わたしの半生(中年編)」より、
鬱病によって中島らもが体験した迫り来る死のイメージ。
スリリングです。こういうの弱い人は読まない方がいいかも。
(対談形式のものをちょこっと編集してあります)


そのころ、玉造の寿司屋のあるビルのワンルームを
自分の仕事部屋にしてあったのね。そこで物書きしてたんやけど。
あるときちょっと離れたとこからタクシー降りて、
その部屋へ向かおうと思って、よたよた歩き出したわけ。
遠目にそのマンション見たときにね、
オレはここから生きて帰られへんなっていう想念が起こったの。
何やろ気持ち悪いなって思いながら、でも一歩ずつ歩いてって、
自分の部屋に入って、とりあえず酒飲もうって思うてさ、
ワイルドターキーっていうきついやつをね、一本買って、
それをグビグビ飲みだして、もうベロベロになるまで飲んだの。
そしたらな、昔のアニメなんかでね、主人公が真ん中にいて、
左側の脳のちょっと上ぐらいのところに悪魔がポヨヨンと出て来て、
右側に天使がポヨヨンと出てくるのあるじゃない。
で、お互いに誘い合ったりする。おまえは盗みを働けとかね、
そんなことしちゃいけないとかいうようなアニメってあるでしょ。
あれとまったく同じ状態が起こった。ほんで、オレの右側のポヨヨンは、
「この先、生きてても何にもええことなんかないんやから、死んでしまえ」
って言うわけ。で、オレの左側のポヨヨンは、
「何をばかなこと言ってるんや」ってね。
「おれは愛してる人もたくさんいるし、子供もいるし、
会社もやっていかなならんし、仕事も順調にやってるし、
何にも死ぬ理由なんかないやないか」って言うわけよ。
今度右側のポヨヨンがね、
「何言うてんねん、そんなこと言うたって明日になったら、
がんになって苦しんで死ぬだけやないか」って言うわけよ。
両方がずうっと言い争ってるわけ。その真ん中でオレはひたすら、
バーボンウイスキーをグビーッ、グビーッ飲んで、
これ、どないしたらええのやろって思ってな。
それで、そのうちにとうとうな、善のほうが疲れ負けしてきよってん。
そんで、悪の、死ね死ね言ってるほうが、勝っちゃったわけよ。
ほいで、オレは、「わかった。そこまで言うんやったらもう死ぬ」って思ったの。
どうやって死のうかって考えて、首くくりは汚いから嫌やし、痛いのも嫌やし、
やっぱりマンションから飛び降り自殺するのが一番いいなあって思ってね。
でもオレの住んでるマンションは五階建てのマンションやから
五階建てでは死ねないかもしれない。
そうだ、前住んでたマンションは十八階建てやった。
あそこまでタクシーで行って、あそこの十八階から飛び降りよう、
人のいないところ見計らって。そう思ったわけよ。決心したわけ。
ほんでね、よし、行こうって言って立ち上がったわけ。
立ち上がった途端にな、体中から冷や汗がどどどどどーっと出てきたの。
それで、一回座ったんかな、へとへとっとなって。
座ったその途端に、マンションの戸が開いて、わかぎえふが来たのよ。
「おっちゃん、何してんの」って聞いてきたわけ。オレは、
「警察でも救急病院でも何でもええから、精神科のある病院に放り込んでくれ」
って頼んだ。「オレ今、自殺念慮が起きてるから」って言って。
わかぎが、「わかった」って言って、すぐ病院へ連れて行ってくれた。
それで助かったんよ。ほんまやったら死んでたのよ、オレは。
だからね、伊丹十三さんのことをすごいよくわかるわけよ。
あの人、鬱病だよ。まちがいないよ。
周りに(助ける人が)いなかったんだよ、きっと。
だからこれも、一つの運と言えば運やね。
生きるように仕向けられてるんのかもわかんないね。


以上、引用である。
本当はチチ松村の相づちが入るのだがすべて割愛した。


渋谷に買い物に行き、ふらりと立ち寄った書店で本を物色。
対談に目のない僕だが、久しくそんなものも買ってないなあと思い、
たまたま手に取ったのがこれ。「中年編」を買ったのは、
「青年編」は中身がなんとなく想像できたのと、
こちらのほうが自分自身に近いシチュエーションだと思ったからだ。
そう、35歳というのはいわゆる「中年」の領域に入るんじゃないかと思う。
そしてそれは、なかなか悪くない感覚でもある。

今よりもっと若い頃の僕は、年を取りたくてしょうがなかった。
早く年を取って、この鬱陶しい自意識過剰から少しでも解放されたかった。
中島らもほど激しくはないが、若い頃は何度も普通に自殺を考えていた。
今はそんなことはない。あれもまた自意識過剰のなせる業だったのだろう。
自分自身で、自らのストーリーを完結させたいとの思いがあったのではないか。
それはとりもなおさず自己愛、ナルシスティックな逃避でしかない。
今でももちろん分からないことのほうが多いが、
何と言うか、生きるということはもっとぐちゃぐちゃなものなのだ。
アンコントローラブルで、時として不愉快で、そして「とほほ」なのが普通なのだ。
昔はそんなふうには思えなかった。もっと自分の望み通りに生きたかった。
小さい視野で見えるもの全てが世界だと思いたがった。
だからずいぶん生きるのが苦しかった。
憤りと諦観と無力。妄想。逃避。矛盾。
そんな醜悪な季節を僕は長いこと一人で過ごしていた。
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by shinobu_kaki | 2007-10-21 19:32 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(0)

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