船場吉兆の順当な崩壊と「信用」のシステム。


かの船場吉兆が廃業、つまりツブれることになったという。
この件については誰もが想像したと思うが、当然の成り行きではある。
予約の数も激減していたらしいが、このようなニュースが広まる中、
逆に予約する客が1組でもいたことが意外とさえ思った。
かように「食」というジャンルにおいてイメージは決定的なものなのだ。

船場吉兆の主な「罪」についてはWikipediaの吉兆の項に詳しいが、
度重なる賞味期限ラベルの張り替え、地鶏や牛肉の産地偽装、
客の食べ残しを別の客に使い回していたという事実、
さらにそれらの責任をパートの女性になすりつけようとしていた事まで発覚し、
商売以前に人間としての品性を疑うべき一連の騒動であった。

故・伊丹十三監督の映画で「スーパーの女」という作品があるのだが、
あれですね、船場吉兆の上層部はこの映画を観ていなかったのでしょうかね。
だって、今回の騒動の内容ほとんどそのまんま、
この「スーパーの女」の中で「ダメな店の例」として紹介されているのだから。
それとも彼らは「この監督は商売のことを何も分かってない!」などと、
劇中の職人さながらに映画を観ながら毒づいたりしていたのだろうか。

この映画の中における「ダメな店」にあたるのは、とある落ち目のスーパーで、
屋号を「正直屋」という。津川雅彦がオーナー店長である。
そんなダメな店を鮮やかに変身させるのは、宮本信子演じる主婦・井上花子。
花子は副店長として内部から、腐ったスーパーの体質を改良・改善していく。
最後にはスーパー全体の意識改革に成功してメデタシメデタシとなるわけだが、
現実の船場吉兆には残念ながら「井上花子的なもの」は存在しなかったのだろう。
というよりむしろ「板倉亮子的なもの」から査察に入られた感じだ。

飲食店と客との関係は、その食物が「絶対に清潔である」という、
一種の見えない契約、つまり「信用」によって支えられている。
テーブルや座敷で料理を待つ客にしてみれば(オープンキッチンは別として)、
厨房において何が行われているのか知るべくもない。
客は、店を信用するしかないのだ。
だから厨房はいつも掃除を絶やさず清潔でなければならないし、
風邪をひいて咳の止まらなくなった料理人は店に出てはならない。
トイレに行って手を洗わずに包丁を握ってはならないし、
ペットの体毛にまみれたままの衣服でスープをこしらえてはならない。

店は店をいくらでも不潔にできる。だから清潔さに価値がある。
そんな信用のシステムが存在するからこそ、
客は店に行き、知らない料理人の作ったものを口に入れることができる。
それは、ややもすると無条件に盲目的で無防備なのかもしれない。
だが「信用」とは本来、無条件に盲目的なものなのである。
それを店、つまり提供者みずから賞味期限を偽ったり、
肉の産地を偽装したりするというのは話にならない。なぜ話にならないか。
嘘だからだ。嘘は、信用の対極にある。
「肉の産地など、どうせ分かるわけはない」と客を侮り、
ただ利益(売り上げ)のみを優先し、
そして何より信用のシステムを崩したことになるのである。
ここに船場吉兆の罪深さがある。

さて、このような「食に関する信用のシステム」が崩れてしまった場合、
つきつめると自分で畑で食物を育てて食べる、という、
非常に手間のかかる状態に行き着くことになってしまう。
ので、
どうか世の中の飲食関係者の皆さんにおかれましては、
(あと医療関係、食品メーカー等におかれましても)、
我々が安心して購入・利用のできる環境を維持していただきたいものである。


…かんべんしてくださいよ、ホント。
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Commented by kuro at 2008-05-29 20:44 x
そうですね。
それもこれも何というか、
コストとかこれまでの評判とか、『「素敵」と思わせる何か』とかの
文脈による、というか、
同じ「食」のジャンルでも、アジアの屋台における清潔さへの期待値なんて
まるで無いけど、それはそれで良しとするしねぇ。
安さとか、文化とか、
コンテキスト自体がまったくもって船場吉兆とは違うけど。

でもアジアの屋台でも、使いまわし(「手付かずの料理を出す」だっけ)なんか、
しないよなぁ。

清潔ではないかもしれないけど、
アジアの屋台やってるのおっちゃんおばちゃんの方が、
信頼できるかもね。

ある意味。
Commented by S24(にっしー) at 2008-05-29 22:04 x
これは披露宴の演出なんかもそう。
「言われた通りやりましたよ」って手を抜くことはいつでもできるしぶっちゃけそこだけ見ればそのほうが利益も上がる。
だけどこいつ(ら)に任せれば安心って信用してもらえる状況を当たり前のように続けて行かなければ1度でも崩れたら元に戻すのはホントに大変だから。
そういうものこそプライスレスの「財産」なんだよね。
Commented by shinobu_kaki at 2008-05-30 10:36
>くろさん

前エントリの表現をふまえたコメント、ありがとうございます。

>アジアの屋台における清潔さへの期待値なんてまるで無い

本当ですよね(笑)むしろあのチープさがいい、
なんて思わせるわけですが、
このへんの差異というか不公平感というかはどうなんでしょうね。
値段が安いから、敷居が低いからというのが大きいのかな。
Commented by shinobu_kaki at 2008-05-30 10:37
>にっしー

ぐっとくるサービスには、余計にお金を払っても惜しくないもんね。
信頼関係がいかに大事かって話ですやね。
by shinobu_kaki | 2008-05-28 13:40 | エウレーカ! | Trackback | Comments(4)

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