湯川秀樹「天才の世界」

ノーベル物理学賞を受賞した博士・湯川秀樹に、
工学博士の市川亀久彌がインタビューするという形式の一冊。
「天才が天才を読み解く」といったコンセプトの本である。
形式については、対談と言えば対談なのだが、これは市川本人が本書で、
あくまで湯川秀樹主導の一冊であるといった発言をしているので、
インタビューという言い方が個人的にはしっくりくる。

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この本で採り上げられている「天才」は以下の四人。

弘法大師(天才について/多芸型の典型 ほか)
石川啄木(愛される啄木の歌/センチメンタリズムとペシミズム ほか)
ゴーゴリ(ゴーゴリの一生/宿命論への共感 ほか)
ニュートン(天才の典型/ニュートンの生い立ち—幼児期の生活環境 ほか)

この四人は2つのグループに分けることができる。
すなわち万能型の弘法大師空海とニュートン、
そして言わばナイーブ型の啄木とゴーゴリ、という区分である。

特に再三登場するのが啄木についての見解で、
湯川氏や市川氏がこの明治末期の若き詩人のこしらえる歌に、
非常な共感を覚えているのがわかる。
特に、26歳で他界する少し前の時期の作品が良い、という。
湯川氏に言わせると「作る歌ほとんど全てが上手い」。

ちなみに、何かに対する印象というのは円グラフで表すことができる。
例えばAという人物に初めて会った時、彼がしたたか酔っ払いだったとして、
その後シラフのAに会う機会を持てなかったとしたら、
あなたのAに対する印象というのは「Aは酔っ払い」ということのみだ。
つまり印象円グラフは「酔っ払い」が100%を占めるであろう。
そして啄木の話だが、僕が彼の人物像に比較的詳しく触れたのは、
関川夏央と谷口ジローのコンビによる漫画「坊ちゃんの時代」第三巻、
「かの蒼空に」が主たるものであるがため、
僕の啄木に対する印象というのはどうしてもよろしくない。
すなわち、金にルーズで計画性に欠け、小心でひがみっぽく、
他人の善意にぶら下がって自律せずに生きる茶坊主的書生である。
上記のマイナス要素のみで、僕の印象円グラフが埋められているのだ。

その「坊ちゃんの時代・かの蒼空に」の中に、
啄木こと石川一が質屋での金策を断られるシーンがある。
そこで質屋のオヤジに啄木は、亡き樋口一葉との才能の差を告げられる。
面と向かって言われたわけではないのだが、
あなたと一葉では格が違う、という意味の言葉を浴びるのである。
「樋口さんは別格です。あの方は天才です」と。

そのような啄木像に接した経験があったから、
この「天才の世界」における啄木の天才評は意外なものではあった。
いや、もちろん後世に名が残っている啄木なのだから、
通り一遍の才能ではないということはわかる。歌も美しい。
しかし本書において、湯川秀樹による啄木の評価というのは、
明治期の質屋による樋口一葉との評価比較に対し、
(小説ではなく短歌や詩で、ということではあるが)むしろ逆転している。
「樋口一葉よりも普遍性において後世に残る。啄木には世界性がある」
そう言っているのである。

しかし理系の極致であるはずの湯川博士が、
実に文学に精通していて驚く。

啄木についてだけど、
やっぱり僕は「社会的にルーズな芸術家」というのが、
どうしても好きになれないんだよね、昔から。
ヴァン・ゴッホもそうだしなあ。
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by shinobu_kaki | 2008-12-22 10:51 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(0)

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