森田信吾「駅前の歩き方」と「食マンガ」について。

六本木で働いていた元社長のアメブロで話題に上っていたので便乗してみる。

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森田信吾「駅前の歩き方」(モーニングKC)

「食」をテーマにしたマンガ作品というのは非常に多いが、この「駅前の歩き方」はちょっと独特の妙味がある。「常食」についてのマンガ。「常食」とは、その土地の人間たちが日常的に食べている、その土地独特の食事のこと。作家である主人公は取材のついでにそんな「常食」を食べ歩くのを楽しみとしている。富士宮の焼きそば、静岡のサクラエビのかき揚げ、長崎のトルコライス、長野県伊那のローメン、そして秋田のババヘラアイスなど。そんなローカルで地味な枯れた視点もユニークなのだが、何より僕は森田信吾の独特の間合いというか(マンガの中の)ノリが好きなのである。あの「栄光なき天才たち」の人ですからね。その独特さっていうのはなんだろう、「ウワアアアッ」みたいな台詞まわしとか…わかるかなあ(わかんないですよね、すみません)。

では、他の「食」マンガについていくつか。

傑作「孤独のグルメ」は、あれはもう完全に一種の文学で、淡々と食事をするだけの男の話なのだが、そんなシンプルさゆえに、食事そのものが「静かなる祝祭」として扱われている。そう、食事は祝祭なのである。それは誰にでも該当することなのだ。「孤独のグルメ」はそんなことに気づかせてくれる。読む前と読んだ後で(一人きりの食事というシーンに限定するとしても)かすかに価値観を変えてくれるマンガ。それゆえに「孤独のグルメ」は文学だと思うのである。

「ミスター味っ子」や「包丁人味平」は「食」がテーマと言うよりは、調理対決マンガなのでちょっと違うジャンルに属する。このジャンルにおいては食べること自体はそれほど重要ではなく、作る事とそのアイデア、そして勝負に主眼が置かれている。しかも評価基準はどちらかというと味そのものではなく、アイデアの斬新さとか奇抜さのようなものだ。面白い事をやったもん勝ちという部分はある。リアリティも極めて薄い。まあ、少年漫画だからね。

「美味しんぼ」は人間関係のもつれやごたごたを、美味しい料理を食べる・用意する事で解決するというものだ。海原雄山との永きにわたるメニュー対決はあったものの、それが主たるストーリーというわけではなかった。キャラの言動は少々類型的というか過剰なところがあって、個人的には富井副部長の俗物っぽさにムカムカしていた時期もあった。昔ですよ。

「クッキングパパ」は「美味しんぼ」よりもソフトで、寂しくなったり疲れたり、元気がなくなったりした人の気持ちを手作りの料理で癒す、救済するという話である。救済と言ってもそれほど大げさなものではなく、なぐさめる程度の事である。基本的に一話完結で、1ページまるまるレシピ解説に使っている。これだけファイルしても役に立ちそうである。そして基本的に善人しか出てこない。

「喰いしん坊!」は掲載誌が漫画ゴラクなだけあって非常にマッチョである。大食い美学の話とでも言うべきか。勝負ものである。読んでるだけでお腹いっぱいになってしまう。いきなりカツ丼5杯食うとか、どうにかなっちゃいそうである。

「刑務所の中」は厳密には食マンガではないが、読むと「食」が非常に重要なポジションを占めており、このエントリに加えておきたい。映画化もされていて何年か前に観たのだが、食事に関してはこの原作マンガのほうがぐっとくるものがあった。やっぱり食は基本なんだなあ。

僕が一番最初に読んだ「食」マンガは「包丁人味平」だった。たぶん中学生の頃だったと思うけど、いつも帰りによる本屋で愛蔵版を買ったんだった。しかもいきなり10巻(それしか売ってなかった)。「味平」の10巻と言えばカレー戦争の回、あの鼻田香作のブラックカレーと味平カレーがデパートを代表して客寄せで対決するというやつだ。カレーで大型デパートに客を呼ぶ…すごいよね。そんな毎日カレー食べないと思うんだけど。あと、味平はずらっと並べた屋台でカレー売ってて、鼻田のインド屋はちゃんとしたレストランで、自分だったら休日に家族と屋台で立ち食いカレーとか絶対いやですけどね。ちゃんと座って食べたいよね。いくら味平カレーが美味しいったって、インド屋がまずいならまだしも十分に美味いんだから。そんなことを思ったカレー戦争編だったなあ。最後はブラックカレーに麻薬性のスパイスが入っていて、シェフの鼻田がラリって逮捕されるという有名なラストで幕を閉じる。
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Commented by こーさく at 2009-04-09 03:06 x
不思議なんですけど、
いわゆる「食漫画」に出てくる料理って
あんまり旨そうに見えないんですよね。
美味しんぼしかり、クッパパしかり、味いちもんめしかり…。

カイジとか、大東京ビンボー生活マニュアルとかに
出てくる食シーンの方がソソるのは何故なんでしょうねぇ…
Commented by shinobu_kaki at 2009-04-09 18:00
>こ−さく

確かに、僕は「味平」を読んでカレーを食べたくなったけど、
カレーそのものは決して、
美味しそうな表現にはなってなかったですよね。
そのへんはビッグ錠氏の作画の限界かもですけど。

思ったのは、ひとつにはモノクロの限界があるのかも。
料理の写真はほぼ100%、モノクロでは写さないですよね。
色がなくなると食欲には結びつかないのかも。

さらに言えば、もっとも強く食欲を喚起させる表現って、
(カラー写真を使えない場合に限り)、
「人が美味しそうに何かを食べている状態」に
とどめを刺すのかもしれませんね。

あ、ちなみに僕はカイジの「焼き鳥とビール」には、
それほどそそられなかったクチなんだよな。
Commented by 左之助 at 2009-05-13 02:21 x
初めまして。

自分は“食いしん坊”作家の新作、“極道めし”と、“深夜食堂にハマっています。”これらは、読むだけで涎が出ます。
Commented by shinobu_kaki at 2009-05-13 05:53
>左之助さま

初めまして。

「深夜食堂」ビッグコミックオリジナルで毎号読んでいます。
独特のゆるさがいいですね。
「極道めし」はちらりとしか読んでいませんが、
あの作者のものは、なんというか一貫していていいですよね。
力強い。
by shinobu_kaki | 2009-04-07 13:46 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(4)

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