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ほとんど一息に読んだ。
中田英寿はすでにあらゆるメディアで語られている感があるので、
そういった意味ではとりわけ新しい情報のある本ではない。
ただ、中田英寿がプロサッカー選手を引退し、
世界をめぐる旅から帰った後にまとめられた一冊なので、
中田英寿という一個人の、サッカー界における
ほとんどすべての時期をカバーした形になっている。
その意味での価値はあるのかもしれない。

僕が個人的に興味深く読んだのは、
98年フランスW杯のチームについて語られた箇所だ。
この大会で中田は、レギュラー最年少ながらチームの中心として君臨した。
つまり、この時の代表は「中田のチーム」だったのである。
とりわけ当時の中盤を構成した3人、
すなわち20歳の中田英寿、24歳の名波浩、28歳の山口素弘。
彼らはそれぞれ、98年代表の中盤について特別な思いを抱いている。
「世界にもまったく引けを取らない、最高のトリオだった」
と考えているのだ。それが面白かった。

中田英寿について、山口素弘のコメント。
「僕は、あの2人とあの中盤を形成できたおかげで、
いまもパスに込められたメッセージというのを
深く読み取れるようになったと思っている。
一昨年に、新潟でチャリティーマッチが開催されたとき、
久しぶりに名波とプレーして楽しくて、
ああ、ヒデがいればなあ、と思っていた。
そう思える場所を自分が持てたのはヒデのおかげで、名波の力。
いまも変わらない誇りだ。
ヒデが残してくれたのは、フィジカルも強くはない、
テクニックだって最高峰ということではない、
しかし意志の強さがサッカーを変え、時代を切り開くということだった」

中田英寿について、名波浩のコメント。
「いまも頭の中に描ける、完璧なトライアングルだった。
本当に、何千、何万のパスを交わしたか分からない。
お互いの妥協できるところを何とか見出して、
それを磨いていく楽しさはいまでも覚えている。
彼が日本サッカーに教えてくれたのは、フィジカルの強さであり、
ボールスピードを上げるという世界への視野であり、
勝つためのメンタリティというものだった」

山口素弘について、中田英寿のコメント。
「モト(山口素弘)は本当に上手いし、モトが一緒にいてくれたからこそ、
僕も、名波も安心して前に出られたというのは、今でも強く思っています。
本当に感謝している。」

そして名波浩についての、中田英寿のコメント。
「サッカーにおいて、そして代表という特別な部分において、
アイツ(名波)以上に僕と同じ感覚でサッカーをやっていた人間、
一緒にやれた、というか、意思が通じた人間というのはいない、
と僕は思っています。
普通サッカーのコミュニケーションの場合は、
アイコンタクトがあったのちにパス、となりますよね。
だけど、彼との場合は、そんな確認はしなくとも、
あ、ヤツなら次はこういうプレーをするだろうな、
って予測の上で動き出すことができた、本当に唯一の人間で、
だからやっていて本当に面白かったし、
名波とは、アイコンタクトさえしなかった。
彼とプレーするのは、僕の中では本当に一番楽しくて、
相手を見ないでバックパス、後ろに流してしまっても必ず彼がいて、
普通はそんなことなかなかできないんですが、
彼とは本当に簡単にね、そんなパスをすることができました。
あれ以上に、コンビというものを一緒に組めた人間はいないって、
今も思っている。98年から後、プレーを一緒にする機会がなくて…
彼もひざの怪我をしてしまったのを本当にすごく残念に思っていました。
もし、名波が一緒にいてくれたら、代表のサッカーも、
僕のプレーもまた全然違っていたんだろうな、
とずっと思っていますけどね、今でも。
あの中盤は、僕の中では一番楽しかった中盤でした。
『キャプテン翼』ではないけれど、僕は翼だ、と思っていたら、
名波はいつも岬くんのような存在で、必ずヤツがいる、という風にね。
意思の疎通なんて考えることもなかったから」

「僕は98年W杯の世代の人間」と言ってはばからない中田英寿。
彼は29歳でを引退してしまったが、
名波と山口は今年も現役としてプレーしている。
by shinobu_kaki | 2007-02-17 20:53 | shinoBOOKS | Trackback(1) | Comments(0)

重松清「流星ワゴン」

昨日、会社の近くのそば屋の2階で読み終えた。

「涙なしには読めない」との評判に違わず、
かなりぐっと来るものがあったのだが、
会社の近くのそば屋の2階で嗚咽したり落涙したり号泣したり、
というのもどうかと思ったのでなんとかこらえてみた。
読んでいたのが会社の近くのそば屋の2階でなかったなら、
誰はばかること無く泣いていたかもしれなかった。
このラストシーンには、人を泣かせる成分が入っていると思う。

タイトルの「流星ワゴン」とは、作中にでてくる赤いオデッセイのことで、
このオデッセイが一般のそれと違うのは、
乗っているのがかつて死んだはずのある父子だということだ。
と言っても「流星ワゴン」にオカルト的に「怖い」要素はほとんどない。
赤いワゴンは死を思う人のもとにふと、現れる。
彼がそのままワゴンに乗り込むと、それはタイムマシーンのように時空を巡り、
過去にあった、人生の「たいせつな瞬間」へと彼をいざなう。
そこで彼は過去の自分を、後悔した瞬間を「なぞる」のである。
三谷幸喜が脚本を書いた「天国から北へ3キロ」を思い出した。
大地真央が主演だったと思うのだが、なぜかやたら泣けたのを覚えている。

「流星ワゴン」は、寓話である。
つまり一種のファンタジーなのだが、彼が追体験する家族の問題は、
とても現代的な苦悩であり切実だ。
重松清は初めて読んだけれど、リリカルで「若い」文体が、
ウエットな物語によく合っていた。かなり良作だと思う。
読んだ人の人生において「たいせつな一冊」になり得るんじゃないかな。

「流星ワゴン」を読んで思ったことあれこれ。

人にはそれぞれ大切な瞬間、大切な関係、大切な人生があるということ。
人の幸せはその人の周りの人間との小さな、しかし良好な関係によるということ。
後悔しない人間などいないということ。
相手と正面から向き合うことはコミュニケーションにおいてとても大切で、
それはとりもなおさず自分自身と向き合うことを余儀なくされること。
つまり、何かを手に入れようと思ったら傷つくことを恐れてはいけないということ。


さて、今日から次の本を読み始めます。
小説ではありませんが、
松岡正剛「17歳のための世界と日本の見方」
17歳というには、えーと、2倍くらい行っていますが(ごほんごほん)、
まあ「青春18きっぷ」も年齢関係なく使えますからね。
by shinobu_kaki | 2007-02-07 02:46 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(10)
ちょっと前に読了。
あまり詠むことのなかったミステリというジャンルだが、
読み出すとやっぱりちゃんと面白い。
ひとつの事件、ひとつの世界で物語が完結するのは、
柄の小さい2時間ドラマの感覚にとても近いね。

東野圭吾は初めて読んだけど、宮部みゆきなんかと比べると、
情報量も少なく、一人の人の独白を延々と聞いている感じで、
「もっと短くできるんじゃないかなあ」という思いもありながら、
最後まできちんと楽しんで読むことができた。

一番のポイントとなる後半の謎解きだが、
謎というほどのアレでもなく、驚きはそれほどなかった。
なんとなく予想ができた展開ではあった。
というよりむしろ、伏線として作者がちりばめた部分が、
少しばれてしまっていたようにも思うけど、どうなのかな。

今は、重松清の「流星ワゴン」を読み始めています。
重松清も読むのは初めて。
けっこうリリカルな文体なんだね。
by shinobu_kaki | 2007-02-05 10:38 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(6)
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読み進めるのがとても楽しかった。
野球ものミステリーの良作、と言って差し支えない。
第3回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。

当初は「スロウ・カーブ」というタイトルだったらしい。
改題して正解だと思う。
まず「スロウカーブ」という言葉はどうしても、
故・山際淳司氏の「スローカーブを、もう一球」を連想させてしまう。
そしてこの小説の主人公である沢村投手について、
スロウカーブというボールはあまり似合わないのである。

沢村航は日本プロ野球の人気球団所属の左投手で、
所属する球団名はオリオールズという名前になってはいるが、
モデルは間違いなく読売ジャイアンツだ。
おまけに監督は、ひらめきときまぐれの采配で知られ、
かつて球界の宝とまで言われた天才肌のスター選手とくれば、
これはもう長嶋茂雄である。
球界の盟主・オリオールズの若きエースである沢村だが、
性格はあくまでもクールで、思ったことをそのまま口にするため、
内外に敵を作りやすい性格。こういう人っているよね。
そんな沢村がある日、自宅マンションの前で見知らぬ男に暴行を受ける。
心当たりのまったくない沢村。その後球団に怪文書が送り付けられる。
内容は「沢村投手が暴力団と癒着している」というものだった。
そしてマスコミには「沢村投手が八百長を行っている」という文書が…。
罠にはめられた沢村、彼はその性格から、
犯人に対して真っ向から戦いを挑むことを決意するのだった。
しかしそこには綿密に計画された恐ろしい陰謀が…という話。

全編通して感じるのはちょっとした爽やかさである。
それは、ミステリにつきものの「殺人」や「死体」が出てこないこともあるし、
主人公の沢村のクールで一本気な性格のせいもあるだろう。
それに「スポーツもの」という題材がさらに爽やかさを増幅させている。
ある瞬間に現れる「秘密」はそれほど驚くほどのものではないにせよ、
ほぐれた紐を解きほぐすのにも似た快感はきちんと味わえると思う。

そして飽きさせない。見どころとなるシーンがたくさんあるからだ。
特に、最後のクライマックスともいえる試合のシーンはいい。
こういった、ストーリーの「核」となるモチーフがあると、
プロットは作りやすい気もするね。面白かった。おすすめです。

特に、クールでクレバーでスマートな実力派、
という沢村のキャラクター造形が良かった。
実際にいたら鼻につくかもしれないけどね。
by shinobu_kaki | 2007-01-28 16:52 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(0)
雑誌「pen」は特集によって買う。
最新号「東欧のグラフィック」特集。
北欧でなく東欧というのがいいね。


「pen」オフィシャルサイト(index)


東欧といえばチェコのアニメとか、
ちょっとくすんだ色の「かわいさ」のあるトーン。
どこか古く、どこか懐かしく、そんな先入観があった。
プラハも「中世の絵本から抜け出たような街」だしね。

さて、ページをめくってみる。


あ、特集の前に。
「pen」には各国をフューチャーしたトピックスページがある。
そのショルダータイトルと、推察される言葉の選び方の理由。

「ニューヨーク裏事情」
→裏通りに真髄のありそうなN.Y?

「男もパリだ!」
→パリのエレガントさはどこか女性的。でも男性誌だからこの言葉。

「目が離せないロンドン」
→ロンドンは昔から文化の発祥的なポジション。

「ローマ至上主義」
→ローマという言葉は歴史を感じさせる。帝国的。大時代的。

「疾走するベルリン」
→硬質なイメージのドイツ、ベルリンにはスピード感がよく似合う。

「ストックホルム最前線」
→リズムがいい。ストックホルム・シンドロームとか、長い音節も合う。

「迷わずソウル!」
→欧州に比べるとやはりグレードが落ちる、迷う…だからこそ。

「未来都市サンパウロ」
→言外に「意外と」が隠されている。あと「未来世紀ブラジル」から。


とかね。
特集の前に寄り道しちゃいましたけど。

では、「pen」の紹介する東欧4カ国。
すなわちチェコ、ポーランド、ハンガリー、スロヴァキア。
東欧というより旧東欧、中欧と呼ばれるこれらの国は、
チェコのブルノ・ビエンナーレをはじめとする、
グラフィックの祭典が行われることでも有名。
らしい。知らなかったけど。

そして「歴史を変えた8人」として、
ヘンリク・トマシェフスキをはじめとする東欧のクリエイターを紹介。
(今、「とまシェフ好き」ってタイプされたよ汗)

さらに、遊び心あふれる街角のサインや建築、
ビールの国・チェコならではのコースターデザインがさすがという感じ。
特に、実際に切手が貼られていて手紙になっているのが良かった。

あと個人的に好きだったのが、
ハンガリーの「ビジュアル・グループ」という会社の作品。
2001年ブダペストで開催された展覧会のポスター、
ジョン・レノン、チェ・ゲバラ、マリリン・モンローが
これ以上ないほどシンプルな記号として表現されたもの。
これぞアイコン!という感じ。
どういうものかは、雑誌を見てくださいな。

全体を見渡して思うのは、
色使いなどはモダンじゃないけど、知的なんだよね。
アイデアがある。福田繁雄みたい。
レトロポップ。そして力強い。
そしてちょっと絵本やマンガを髣髴とさせる。
積み木とかブリキ、つまりおもちゃが良く似合う。
それはきっと「ラクガキ」の精神じゃないか、と思った。

気候的にもひんやりとどこか薄暗く、
歴史的にもハードな状態を潜り抜けてきた東欧。
「ラクガキ」のようなデザインはそんな東欧において、
心を遊ばせイメージを解放するような、
シニカルでピースフルなリヴェンジだったんじゃないかな。


あ、東欧っていうか旧東欧、中欧ね。
「pen」が東欧って言ってるから便宜的に。
by shinobu_kaki | 2007-01-16 15:59 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(4)
別に大袈裟でもなんでもなくて、本屋はワンダーランドだと思う。
ワンダーランドで悪ければ、一種のパラダイスだ。
日々新しい書籍が更新され、常に圧倒的な知識の量と質、
絶対に、すべてを読むことは誰にも叶わない。

しかしその中に、必ず自分の興味の対象となる情報は存在し、
それを手に入れたいと言う欲求を抑えることに一苦労して、
ワンダーランド巡りは終わる。いや、終わらせなければならない。

欲望の制御に失敗してしまうと、
「衝動買い」という極めてポピュラーな状況に陥ることになる。
しかしそれは間違いなく「幸福な失敗」である。
帰ってからたっぷりそれらを読むことができるという幸福感を、
我々は本たちと一緒に持ち帰るのだ。

都内にはラブリーな本屋はいくつもあるが、
個人的にことさら幸福感を感じるのは渋谷のパルコブックセンター。
アクセスを含めた立地的な部分もいいし、
本のセレクトも、スノッブになりすぎない程度にアート要素があり、
ブックファーストほどの品揃えと売り場面積はないが、
量は十分だし、書店員によるピックアップのセンスも好みだ。
買うことはほとんどないが、洋書「LOGOS」の併設も頼もしい。
そんなわけで、今年最初の「幸福な失敗」をパルコブックセンターで。

吾妻ひでおの「失踪日記」。
初版は2年ほども前なのでずいぶん今さらだが、
読んでみたという会社の同僚がオススメするので買ってみた。
可愛らしい絵柄でずいぶん中和されているが、
これはなかなか壮絶な体験だよね。
漫画家という職業は「アート志向」と「商業主義」という、
決して矛盾はしないながらも、両立が難しい精神状態を強いられる、
なかなかメンタルハードな職業なのかもしれない。
デザイナーもそういう部分はあるけれど。

暮らしの絵本「食べ方のマナーとコツ」「しぐさのマナーとコツ」
ニンテンドーDS「脳を鍛える某」の爆発的ヒット、
「鉛筆で奥のほそ道」などのリリースなどに見られるように、
日本は「学ぶ」ことがブームであり、その潮流の中にあると言える本である。
知っているつもりで意外と知らない「コモンセンス的マナー」の本。
全ページイラストでわかりやすい、という間口の広い本だ。
意外とマナーって知ってるつもりで知ってなかったりする、気がする。
もちろん僕に関してなのですけれど。

interior ARCHITECTURE
特集「和風のひみつ」。普段なら絶対に買わない本。
というか、目にした記憶すらない雑誌である。
本屋をぶらぶらしているとこういった「出会い」があるのが醍醐味だ。
「和風」とは一つの様式を指すものではない。では、「和風」とはなにか。
「和風六法」という言葉がある。すなわち、
うつし、くずし、みたて、つくし、ならび、くらべ、というキーワード。
概念的なこれらの言葉は、実はそれぞれ具体的な方法論なのである。
すべてデザインには理由がある。建築もしかりだ。
いや、建築こそ「用の美」の集積したジャンルであって、
本当の意味でのデザインの本質は、人の使う空間づくりのそれにあるのかも。
新年にふさわしい、自分にとって新しい情報の風、といった一冊だった。
これからは興味の範囲を、こうして徐々に拡げていくことにしたい。

さて、今日は久しぶりに鍼を打ってもらいに世田谷へ。
思えば20代の頃からお世話になっている鍼の先生に、
今回お土産を買ってくることができた。秋田の日本酒である。
彼は大吟醸が好きなのだ。秋田は米どころ、吟醸というよりは純米マーケット、
しかしその中でも美味と思われる一本を買って来たのだった。

三連休、天気は荒れるといいながら青空の日。
by shinobu_kaki | 2007-01-07 09:56 | shinoBOOKS | Trackback(1) | Comments(0)
読んでいて「おおっ」と思わせる、
目を見開くような、頭を心地よく叩かれたような、
そんなディライトな瞬間をもたらす小説は良い小説だと思う。

伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」は、まさにそんな一作だ。
二つの物語が交互に進んでいくカットバックのような形式、
村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」に見られるあれだ。
ここでは「現在」の物語と「2年前」の物語が交互に語られる。
2つの物語が溶け合い絡みだしてクライマックへとなだれ込む様は圧巻、
さらに伊坂幸太郎に用意されたある「仕掛け」によって、
あなたは気持ちの良い裏切りを感じることになるだろう。
おおっ、なるほど、そうだったんだ…。

それにしても伊坂幸太郎はアイデアのある小説を書く人である。
僕はミステリをもともと読まないので、全てがとても新鮮に感じる。
随所に伏線をちりばめて、それらを次々に「消化」していく。
そういう意味で、読み終わった後にはさっぱりと何も残らない。

例えば村上春樹の文章は個人的な手紙を読むような独特のリズムがあって、
その語り口に浸ること自体が読む楽しみとして機能する作家である。
伊坂幸太郎の文章そのものは特別なものとしては機能しない。
文章はアイデアを伝える、物語を読み進ませるためのツールと思わせる。
読んだ人に何かを残し、心情的変化をもたらすものが文学だとすれば、
伊坂作品は文学にあらず、しかしまぎれもない良質なエンターテイメントだ。

アイデアといえばもう一つ、僕がこの人の作品で気に入っていることがある。
それは、ある作品の登場人物が別の作品にも出てくる、というもので、
伊坂作品の世界は繋がっている、リンクしあっていると言えるのだ。

手塚治虫の作品に顕著なのだが「スターシステム」という方法がある。
漫画の登場人物を俳優(スター)のように扱うやり方で、
いろいろな作品に、同じキャラクターが名前を変えて登場し活躍するというもの。
ややもすると作者の自己満足に留まってしまうかもしれないが、
読者としては、その作者の世界に対してより一層の親近感を抱くことができる。
伊坂幸太郎の作品世界のつながりは、このスターシステムを連想させる。
彼の作品を読むにあたって、新たな楽しみが生まれるのである。

「アヒルと鴨のコインロッカー」を読み終わったばかりだが、
すぐに2回目を読みだした。僕にしては珍しいことだ。
しかし、先に書いた「仕掛け」を知ってからはもう一度読まずにはいられない。
読み終えていたはずのエピソードの全てが、違う角度でもって立ち上がってくる。
思考の死角を突かれた感じ。オセロのように視点ががらりと変わる。
スティング。してやられた。そんな心地よい裏切りの味わえる良作である。

「WEB本の雑誌」によるレビュー集
by shinobu_kaki | 2006-12-29 12:29 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(0)
いいんだか悪いんだか、
最近、本を読むスピードが上がった気がする。
というよりも、
ななめ読みっぽい読み方をするようになってしまった。
一文字一文字「読んで」ゆくのではなく、
ページの紙面を「見て」文字列の単位で理解する感じ。
小説よりも、雑誌、新書などの情報系の本を読むことが増えたせいかな。
あと、Youtubeをはじめとするネットコンテンツなんかもまさにそう。
せっかちになったのかもしれない。

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さて、土曜日に買った本である。
デザインにひそむ“美しさ”の法則」(木全賢)
買ったのは二子玉川駅のブックファースト。
土曜日に髪を切りに行ったついでに立ち寄り、購入。

主に工業デザイン、つまりプロダクトから、
日常にあふれるデザインの「美」の秘密を紐解いた一冊。
「美」といえばあれです、やはり黄金比。
いわゆる1:1.618の比率で表され、もっとも良いとされる形のバランス。
トランプ、クレジットなどのカード、名刺、新書、ハイビジョンテレビ、
タバコのパッケージ、デジカメのIXY…これらすべて黄金比。
ちなみにiPodの形も黄金比ですが、
iPod shuffleは黄金比を縦に2つ繋げた形であり、
iPod nanoは黄金比の矩形の上に、横にした黄金長方形を繋げた比率。
とりあえず黄金比にしとけば間違いはあるまい、
って感じすら覚えるほどに、日常には黄金比が溢れてる。
それはまさに「黄金比信仰」とでも呼ぶべきもの。

ただ、黄金比がすべての人間にとって本当に美しいかというと実は疑問。
確かに、バイオリンのストラディバリウスにノートルダム寺院、
バウハウスのポスターからフォルクスワーゲンビートルに至るまで、
かなりのものが黄金比でもって作られていることは確かだけど、
「数学的に美しい」というピタゴラス的ユークリッド的な理由でもって、
本当に造形的な「美」を証明できるかどうかは疑問だ、ということです。
まあ、「美」の定義なんて個人に拠るものでしょうからね。

さらにこの本の中では、紙のA版B版が代表的である「白銀比」、
プレイステーション本体に見るモダンデザイン、
デザインから見た、ミッフィーやアンパンマンが人気を博している理由、
交通標識などのマークと人間の記号認識について、
使いやすさと美しさの関連性つまり「人間工学」としてのデザインにも言及…
なんかこうして書き出すと、面白コンテンツ満載の一冊だねこりゃ。

でも、冒頭に書いたように、最近なんだか「ざざっ」と読んじゃう癖がついて、
二子玉川駅前のマクドナルドでポテトを食べながら、
やけにあっさり(30分くらいか?)読み終わってしまったという、
実になんだかもったいない読書体験なのであった。

また、読み直そうかな(←速読の意味なし)。
by shinobu_kaki | 2006-12-18 11:09 | shinoBOOKS | Trackback(1) | Comments(2)

メモ「テレビCMの崩壊」

以下、メモ。


「アイデアは無料ではない」

「新しい消費者へのマーケティング10の教義
1.今日の消費者は情報通である
2.今日の消費者は主導権を握っている
3.今日の消費者は懐疑的である
4.今日の消費者は繋がっている
5.今日の消費者は時間に追われている
6.今日の消費者は要求が多い
7.今日の消費者にブランド・ロイヤリティはない
8.今日の消費者は常にアクセスできる
9.今日の消費者は先を行っている
10.今日の消費者は執念深い」

「オーケストラを指揮したいならば、聴衆に背を向けなければならない」

「データとは?→ 日の出の時間は5:38 AM
 情報とは? → 太陽は5:38 AMに東から昇り、7:45 PMに西に沈む
 知識とは? → 森の中で迷った時は、太陽を見て方角を確認することだ。
 知恵とは? → 森の中で迷うようなことはしないほうがいい」

「インターネットはテクノロジーではなく、人である」



仕事において。最終的には人間性が問われるような気がする。
それはちゃんと挨拶できるとか目を見て話せるとかいう基本的な部分から、
超コミュニケーターというか、気を利かせる、危険を回避する、
正しい姿勢、たたずまい、人に不快を与えぬ所作、礼儀、
例えば外でちゃんと食事できるスキル、
いるだけで人に元気を与えられるような溌剌とした覇気、
相手に伝わる言葉と動作で話すこと、会話のキャッチボール、
好奇心の持ちようや行動力、判断力、
これらすべては別物ではなく繋がっていて一個の人の中にあって、
結局人と接する時にはそういった構成要素のようなものが、
なんだかんだと問われているんじゃないか、と。
それは別に大仰な話じゃなくて、とても自然なこととしてね。

マーケティングの本の感想にしては、ずいぶんな脱線だけれども。
まあ、思いついたこととして。以上。
by shinobu_kaki | 2006-12-08 15:28 | shinoBOOKS | Trackback(1) | Comments(6)

内田 自分ひとりだとバランスとれないんですよ。相手が要るんです。
武道を30年やってわかったことの一つは「味方と敵」というスキームに固執して、
自分を活かすために相手を殺すという発想をしている限り、
安定的な状態にはたどりつけないということです。
目の前にあるものとバランスをとらないと始まらない。

 剣道の達人も同じことを言っていました。
要するに「受け」が重要で、相手を倒すことが重要ではない、と。

内田 武道は「弓馬の道」と言いますでしょう。
刀槍の技術はすべて弓と馬の間にある。的は動かないし、襲っても来ない。
うまく的に当たらないとしたら、それは敵が外部にいて妨害しているからではない。

 敵は内側にいる。

内田 そうです。自分自身の身体を完全に統御しようという欲が
自分自身の身体統御を妨げている。

 的を受け入れない限り、絶対に当たらないわけですな。

内田 的と射手が別のものである限り限界があります。同じように馬も敵ではない。
それを統御できればパフォーマンスは劇的に向上する。
的や馬を相手にしているときは「味方と敵」というスキームはもう成り立たないんです。
「人間ならざるもの」とのバランス形成を通じて因習的な自我―他者の図式を
解体すること、それが武道に求められているものだと思います。

(中略)

 私のところにも「自分探し」のために座禅したいという人が来ます。
(註:南氏は禅僧)
座禅の最大の目的は万事を休息すること。これが難しい。
人は休みと称して遊ぶ、明日から仕事をするために休む。
万事を休息するとき、「自分」を勘定に入れてはいけない。
「自分」というものは、探すことができるものではないということが
わからないと何も始まらない。

内田 典型的な「自分探し」は、仕事を辞めて、家を出て、
海外を放浪するというかたちを取りますね。
どうして自分が何ものかを知ろうとするときに
誰も自分を知らないところに行くのか。
それは「自分探し」というのが、「探す」ではなく「創る」ことだからですね。
外部評価を排除して、自分の思うままに自分自身を造形したい。
人間は世界に対していつも遅れています。
すでに誰かの子どもであり、すでに名づけられており、
どこかの共同体の成員であって、自分では決められない。
その世界に対する「遅れ」を逆転させたい。
他人の先手を取って、「私の設計図は私が書く」というのが「自分探し」でしょう。
それは不可能な企てだと思うんです。

 「自分」というのが自分の手に負えるものだと思っているのが
大きな誤解ですよね。「自分」は自分の手に負えない。


新潮社「波」11月号 
内田樹×南直哉 対談「『本当の私』というフィクション」より





出版社発行のミニブック、講談社が「本」なら新潮社は「波」。
講談社のやつのほうがカジュアル。新潮社のはちょっと文士的かな。
対談者は「うちだたつる」と「みなみじきさい」、
片や武術派大学教授、片や禅僧という組み合わせ。



【追記】講談社の「本」、いつも欲しいときに見つからないので、
定期購読の申し込みをしてみました。年間購読料900円。昼ごはん並みだ。
by shinobu_kaki | 2006-11-09 19:29 | shinoBOOKS | Trackback(1) | Comments(2)

移動祝祭日


by Shinobu_kaki
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