<   2007年 05月 ( 29 )   > この月の画像一覧

メールで大容量のファイルを送ることができるサービスがある。
便利なので仕事でも最近よく使っている。
これでデータの入稿まで出来たりするからね。
「宅ふぁいる便」は容量50MBまで。
「FILETRACK」のように1GBまでオッケー、なんてのもある。

普段なら自分で持っていったり取りに来てもらったり、
バイク便を手配するケース(これが一番多い)において、
メールだけで済んでしまうのは何しろコストがかからなくていい。

これを使うたびに思うのは、このシステムがより整備されていけば、
バイク便業界はかなりピンチだよなあということ。
(もう、かなりピンチなのかもしれないけど)
あらゆるコストの中で最も高いと思われる人件費が浮くのである。
これはオンラインの圧倒的な勝利だ。

貸ポジ屋も、ずいぶんあちこちがつぶれてしまった。
いわゆるフォト・ライブラリーね。
昔はポジをわざわざ貸ポジ屋まで見に行ったりしてたけど、
今じゃあ完全にウェブ検索のシステムに移行している。
確かにこっちのほうが断然便利ではある。

似たような話だが、写植屋もほとんどがつぶれてしまった。
デザインの仕事がデジタルになってしまったからね。
つまり、Macでデータを作ってそのまま入稿、というのが標準になった。
かつて版下を作る職人がやっていた部分をデザイナーがやっているわけで、
その分デザイナーのギャラを2倍にして欲しいくらいだ。

これらの話に関して思うのは、
便利のためにテクノロジーは存在するということ。
便利は必然であるということ。
便利は不可逆であるということ。
そして、便利は雇用の可能性を減らすということ。

版下を実際にいじったことのあるデザイナーも今では少ない。
僕も世代的にはデジタルから入っていてしかるべきだけど、
最初に入った会社がちょっとデジタル・ディバイドってとこがあったので、
仕事を始めて数年はアナログなやり方で仕事をしていた。
印画紙。カラス口。雲形定規。トレスコ。レタリングにペーパーセメント…
そんな「図画工作」的な世界でやっていた数年間だった。
それでだけに、Macでの仕事に慣れるのにかなり苦労した記憶がある。
「選択ツールはつまりピンセットだ」みたいに置き換えて覚えた。

色んな人が言っているし、僕も思うのだが、
初めからMacのモニターの前「だけ」で仕事をする人に、
いいデザイナーはやはり少ない気がする。
少なくとも僕の場合はいかにMacの前に座る時間を少なくするか、
そういうことを思ってやっている。つまりインプットだ。
この場合、Macはあくまで「手作業の場」でしかない。

ただ、アイデアを考える時にウェブというのはとても便利で、
これはもう欠かせないソースになっている。
ウェブを上手に使えるかどうかのポイントは「検索」にあると思う。
そして「検索」のポイントは「想像力」だ。
これは検索に限らず何においても必要なのだが。
by shinobu_kaki | 2007-05-31 13:22 | デザイナーという病 | Trackback | Comments(8)
昔話の構造31の機能分類

1:「留守もしくは閉じ込め」
2:「禁止」
3:「違反」
4:「捜索」
5:「密告」
6:「謀略」
7:「黙認」 (1〜7は導入としてセットになっています)
8:「加害または欠如」
9:「調停」
10:「主人公の同意」
11:「主人公の出発」
12:「魔法の授与者に試される主人公(贈与者の第一機能)」
13:「主人公の反応」
14:「魔法の手段の提供・獲得」
15:「主人公の移動」
16:「主人公と敵対者の闘争もしくは難題」
17:「狙われる主人公」
18:「敵対者に対する勝利」
19:「発端の不幸または欠如の解消」
20:「主人公の帰還」
21:「追跡される主人公」
22:「主人公の救出」
23:「主人公が身分を隠して家に戻る」
24:「偽主人公の主張」
25:「主人公に難題が出される」
26:「難題の実行」(にせ主人公が先に行なう場合も多いです)
27:「主人公が再確認される」
28:「にせ主人公または敵対者の仮面がはがれる」
29:「主人公の新たな変身」
30:「敵対者の処罰」
31:「結婚(もしくは即位のみ)」

プロップの昔話31の機能分類
続・昔話31の機能分類
(おまけ)神話とキン肉マン
by shinobu_kaki | 2007-05-29 13:00 | エウレーカ! | Trackback | Comments(0)

プレゼント。

昨日、婚約祝いのプレゼントをいただきました。
感謝!

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手前のはマカロン。
大事に大事にいただいています。
僕もさっき食べました(笑)

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そしてルーム・ステキ・ランプ。
間接照明好きなもので…とても嬉しいです。

どうもありがとうございます。>おふたりさま
by shinobu_kaki | 2007-05-29 00:56 | ライフ イズ | Trackback | Comments(2)
アニメ化もされた話題作、と言っていいのかな?
色んなサイトで高評価だったこともあり、一度読んでみたかった。
この度、漫画喫茶で1巻から8巻まで一気に読破できた。

アフタヌーンという雑誌は全体的にマイナー臭が漂う。
メジャー的、つまり、誰にとっても分かりやすく面白いというには、
ちょっとだけ何かが足りない作品が多いんだよね。
岩明均の「ヒストリエ」は盛り上がりと掲載率(!)が足りないし、
黒田硫黄「あたらしい朝」は親切さというかサービス精神に欠ける。
「プラネテス」を書いた幸村誠の「ヴィンランド・サガ」は、
いかにも世界観がマニアックすぎる、とかね。
しかしこれらに共通するのは、ちゃんと読むと「すごく面白い」ということだ。
作家としての資質がすばらしくあるんだよね。
だからこそメジャーに、ポップにならないということでもあるけれど。

ひぐちアサ「おおきく振りかぶって」もそんなアフタヌーン誌の中の一作。
高校野球を舞台にした漫画で、作者のひぐちアサは女性である。
この人、正直絵はあんまり上手くない。何が上手くないって、見づらいのだ。
あと人物の描き分けが出来てないので、脇役の区別が難しい。
しかし丹念なドラマの構築と、興味深く示唆的な蘊蓄のインサート、
そして何より「この人野球がホントに好きなんだなあ」と思わせる何かが、
ビシビシ感じられるわけです。「想い」があるっていうのかな。伝わるものがある。

スポーツにおけるメンタルトレーニングに着目している点など、
三田紀房「甲子園へ行こう!」を彷彿とさせなくもないけど、
「大きく〜」のほうがのびのび描いている分の親近感はあるかもね。
全体的につくりの粗っぽい漫画だと思う。ただ、それがある種の魅力になっている。
のびのび描いていると思わせる筆致が、
高校野球という刹那的な輝きをもつ題材と相まって、実に清々しい一作である。
なるほど、これはジャンプなどシビアな漫画誌ではあり得ないだろうね。
だって色んなところを編集者に直されてしまうだろうから。
そういう意味でも幸せな漫画だとは思う。アフタヌーンの編集体制は知りませんが。

最新8巻、桐青高校戦のクライマックスの盛り上がりは異常。
わかっていつつも手に汗握ってしまう。すごい面白かった。
ていうか高校野球のクロスプレーってずるいよ。絶対盛り上がるもの。
しかし主人公の投手・三橋(みはし)、
これが実際にいたら確かにいじめられっ子になるかもなあ(笑)
キャラ造形がちょっと子供っぽいけど、少年漫画だからね。
あと、全体的にBL(ボーイズラブ)っぽいという指摘があるんだけど、
それはこの作者が女性だからじゃないかなあ。というのは、
女の子で仲が良かったりすると、手をつないで歩いたりするじゃない。
さすがに男同士でそれはしないけどさ。
そんな女性特有の「親しみ」の距離感のようなものが、
この漫画における少年たちの「近さ」となっているんじゃないかと思うけど。

ともかく興味ある人、ぜひ読んでみてください。
損はしないと思うよ。

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おおきく振りかぶって wikipedia
by shinobu_kaki | 2007-05-28 11:51 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(0)
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今日はとても暑かったね。
好天に家にいるのは性に合わないので、昼過ぎに自転車でそこらを散歩。
自転車なのに「散歩」と言うのか分からないが、ともかく散歩です。
坂道を登って住宅街を走る、人家はほとんどない。
写真は宝来公園。静かな高級住宅街にあってさらに静かな一角、
もう緑が目に眩しいほどの季節になった。

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何もない公園、でも緑の中にあると空気が違う気がする。
森のような匂いがする中を歩く。遠くで子供の声がする。

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とある雑誌によると日本で一番の高級住宅街は田園調布だそうである。
基準は色々あるが、収入の額だけではない本当のリッチが住むのがここだそうだ。
田園調布の街は厳格な自治が機能しており、駅前がいつも綺麗なのもそのせいだし、
新しく家を建てるにしてもすでに住んでいる人々の承認が必要となる。
かつて鈴木その子が3丁目に迎賓館のような豪邸を立てようと計画したが、
近隣住民から「街の美観を損なう」ということで反対され、断念したそうだ。
ちなみにリッチの基準のひとつである「SECOM」の加入率が日本で一番高いのも、
ここ田園調布だということである。街路樹に沿って個性的で豪奢な建物が並んでいる。

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丸子橋あたり。今日は天気が良いので河原にたくさんの人がいる。
この位置はいつも誰かが楽器を演奏している。
空色の橋に向かってサックスを奏でる見知らぬ2人。

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午後も夕方近くなると、影が長くなる。
6月の第一週には、このあたりでお祭りがあるらしい。
その為の掲示用の板が設置されていた。

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伊坂幸太郎の「チルドレン」を読みながら横になっていたら、
いつの間にか1時間ほど寝てしまっていた。めずらしく「昼寝」である(夜だが)。
起きたら、食事ができていた。鳥の唐揚げ、ポテトサラダ。
先週のコロッケに続き揚げ物シリーズ、
作りたての唐揚げはふんわりとして香ばしく、ビールにとても合う!

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こちらは自家製フライドポテト。
軽く塩をふって、揚げたてをいただきます。

今日は伊坂幸太郎「チルドレン」の他に、中公新書「世阿弥」、
そして藤子・F・不二雄「T.Pぼん」2巻。
「T.Pぼん」は今まで読んでなかったのだが、これは面白いね。
そもそも藤子・F・不二雄のSF短編集をマイフェイバリットとしているくせに、
これを読んでないなんてありえないな。知的アイデアに溢れた傑作。
by shinobu_kaki | 2007-05-26 22:36 | ライフ イズ | Trackback | Comments(2)


ACミランが4季ぶり優勝 サッカーの欧州CL決勝


2年前のイスタンブールの雪辱を果たした形となったACミラン。
ミランの2点はFWのインザーギの得点によるものだ。
この試合を観てはいないんだけど、それぞれの得点シーンはyoutubeで見たよ。
1点目はラッキーくさかったけど、2点目とか上手かったよね。
決してファインゴールって感じじゃないのがインザーギっぽくていい。

フィリッポ・インザーギというのは不思議な選手だ。
足も速くないし技術もそれほどではない。
走り方もなんか変てこだ。手の振り方が面白い。
ゴール後のパフォーマンスも過剰なテンションで、血管も切れよとばかりである。
それでも世界一のクラブACミランのレギュラー・フォワードを張り、
レベルにおいてワールドカップ以上と言われる、
この欧州チャンピオンズリーグの大舞台しかも決勝で、決定的な仕事をするのだ。
伊達男の国・イタリアの男らしくルックスは良いと思うのだが、
なんというか、プレーがカッコ良くないのである。だが、彼はそれが持ち味。
そして得点こそがフォワードの最高の仕事とするならば、
彼は「点を獲る」という得難いテクニックを持った選手なのである。

こう書くと、なんだかかつてのゲルト・ミュラーを思い出す。
175cmの身体で、ドリブルやパスなどの技術は「高校生レベル」と評されながら、
記録的な数の得点を重ねたドイツの伝説的フォワードである。
ゲルト・ミュラーもいわゆる「泥臭い」選手だった。
↓比べてみましょう。
wikipedia フィリッポ・インザーギ
wikipedia ゲルト・ミュラー

それにしてもイタリア代表選手というのはバラエティに富んだ男の宝庫だよね。
アホっぽいトッティ、立ち姿から美しいネスタ、どうみてもアニマルなガットゥーゾ、
「オラ、田舎から上京してきたンですけドも」という雰囲気を漂わすピルロ…
ひとえにイタリア人と言ってもタイプは実に多種多様で面白い。

チャンピオンズリーグ決勝、地上波で再放送やらないかな。
でもサッカーは結果が分かってから観ると面白くないんだよな。
そして今回の大会はカカという選手を世界ナンバーワンレベルまでブレイクさせた、
一つにはそーゆー大会だったんじゃないでしょうか。
by shinobu_kaki | 2007-05-24 12:27 | さかー考 | Trackback | Comments(2)
ふと、なんとはなしにしばらくあっていない友人のことを思い出した。
仙台の2年をともに過ごした同級生で、彼も東京に住んでいる。
会おうと思えば会えるはずなのだが、お互いに忙しいこともありなかなか会えない。
というか、いつでも会えるという気安さからか連絡もずいぶん取っていない。
何年か前にこのブログに書いた以下2つのエントリは、
どちらもその友人とのことを書いたものである。突然だが懐かしくなったので再録。
学生時代は金もなくさしたる展望もなく、ただただ膨大な時間だけがあった。



風の歌を聴け

その夏僕たちは19歳で、梅雨どきのカー・ウオッシャーのように絶望的に暇を持てあましていた。2人で25mプール一杯分のビールを飲んだり、気の利いたバーでピーナッツの殻を床に放り投げたりしてやりすごすには、当時の我々の経済力はあまりに貧弱と言わねばならなかった。高校の時の誕生日に友達から「ノルウェイの森 上・下巻」をプレゼントしてもらった僕は、その頃から村上春樹を貪るように読んでいたが、ともに19歳の夏を過ごしたその友達は読書の習慣があまり無く、まだ村上春樹を読んでいなかった。

これは前フリである。

学費を稼ぐために昼夜問わずアルバイトに明け暮れた我々は、朝に起きられなくなり午前中の授業をさぼりがちになった。よく考えると本末転倒なのだが、夜のバイトは比較的わりが良かったのだ。それがたとえ、立ちっぱなしの警備員の仕事だとしてもだ。彼とは一緒に色々なアルバイトを経験したが、中でも出色だったのはイベントのアルバイトで、車で遠方に出かけては着ぐるみを着て子供たちの前でウルトラマンショーを披露する、というものだった。レンタルの着ぐるみはそのときどきで違っており、イカロス星人だったりレッドキングだったりした。レッドキングは高いので、だいたいいつもイカロス星人が多かった。バック転の出来るアルバイトは優遇され、「バック転手当て」として日給に500円が加算されるシステムだったが、バック転の出来るものは当時誰もいなかった。アルバイトの中ではなんとなく不文律的に配役が決まっており、それは主に体格によって決められていた。つまり最も体格が良いというか「デブ」が怪獣に入るのだった。僕はショッカーで、友達は最もスリムという理由でウルトラマンだった。なぜ主役がウルトラマンなのにショッカーがいるのか不可解だったが、我々は発言権のない無力なアルバイトで、しかも僕はショッカーだった。ショッカーにはセリフすら無かった。

アルバイトの無い日には、彼の部屋で漫画を読んだり、テレビゲームの「スーパーフォーメーションサッカー」をしたりして過ごした。その頃の我々の娯楽として「映画」という選択肢は皆無で、映画を見るくらいならば原付で30分ほどの夜の海に行って、煙草を2〜3本ふかして帰ってくるほうがよっぽど上等な暇つぶしのように思われた。だからその夜、突然にビデオを借りてこようという展開になったのはとても珍しい事と言わねばならなかった。かと言って2人とも特に観たい映画があった訳でもない。超大作はたすきに長く、アダルトビデオは帯に短かった。これはどうだろう、と僕は一本の映画を提案した。邦画が気楽だろうと思ったのかも知れない。あと大きな理由としては、原作の小説を僕が読み込んでいたという事だった。

すなわち大森一樹の「風の歌を聴け」

原作とは言うまでもなく村上春樹のデビュー作としてのそれであり、あの俗物的なほどにスタイリッシュで散文的なテキストが、どのように映像化されているのか興味があった。キャストも気になった。ほとんどの人は、小説を読むときに登場人物の顔を独自に思い浮かべ、一度決まったイメージを覆すのはよほどの事と言えるのだが、例えば僕の「鼠」のイメージと大森監督の「鼠」のイメージはどのように違うのか。また、「僕」はどうか。そんな事を思いながら我々は、6畳(4畳半だったかもしれない)の部屋を暗くしてビデオを見始めた。


「完璧な文章など存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」








…ちがうううう

「僕」の小林薫はまだしも「鼠」の巻上公一のルックスは違った。あまりにイメージと違った。そして何より「三番目の女の子」が「室井滋」というのはあんまりだ、と思った。ある程度予想できた事だが、小説ではぴたりと決まっていたセリフも実際に耳にすると違和感だらけだった。僕は頭を抱えていたが、一緒に見ていた友達はごく普通に集中して見ているようだった。僕は辛抱して最後まで見ることにした。

「…違うんだ。こんなつもりじゃなかったんだ」見終わって僕は言った。
「小説はとてもいいんだよ。もっとクールだし、評判にもなった。この映画で村上春樹という作家の事を嫌いになって欲しくないんだよ」
満塁のチャンスにぶざまに凡退したバッターがチームメイトに言い訳するように。ゲームを決めるPKを外してしまったサッカー選手の弁解のように。

「いや、なかなか面白かったよ」

彼は言った。
意外な返事に僕はとまどったが、楽しめたならそれでいいと思った。僕はなんというかそういう人間なのだ。一緒にいる人間が楽しめたかどうかを気にしてしまうのだ。そして彼は(これは今になって思うのだが)、非常に懐の広い人間だった。

実際、彼はこのあと村上春樹に傾倒することになる。小説よりも先に映画から入った格好だが、順番はどうでもいいだろう。数ヶ月後、彼は嬉しそうに僕に言った。
「いま、『羊』を読んでるんだよ」

それから13年が経った。
我々が19の夏を過ごした地である仙台で彼は披露宴を催し、僕も東京から駆けつけた。天気はあいにくの雨だったが、チャペルからその後の披露宴まであたたかい祝福に満ちた良い式だった。ホテルも立派だった。僕は友人代表としてスピーチを頼まれていた。式が進行し、スピーチの時間になった。緊張していた。
「それでは友人代表のかた、スピーチをお願いいたします」
司会者がゆっくりと言った。
「スピーチをくださるのは、新郎の学生時代からのご友人で、
新郎曰く『僕はこの人の影響で本を読むようになった』という…」

彼は笑って、こっちを見ていた。

(了)







真夜中のレース。

運転免許を持っていない。ほとんどの人たちは高校の卒業前に取得してしまうであろう車の免許だが、僕はちょっとした事情からその期を逸してしまったまま今に至っている。東京に住んでいる現在は、車を運転できないことの不便を特に感じることはない。幾重にもはり巡らされた地下鉄は東京のどこへ行くのにもスムーズな移動を約束してくれているし、ポイントとなる街から街へは頻繁にバスが通っているし、緑色の環状線は3分おきに日夜休みなく回り動いている。そして恵比寿という都内でも家賃のけっして安くないエリア(僕が住んでいる部屋はたいしたことはないのだが)に住んでいる僕にとって(筆者註:2005年の春先まで僕は恵比寿に住んでいた)、高い駐車場代を負担しなくて済んでいるのはむしろメリットともいえる。もちろんデメリットはある。例えばガールフレンドをドライブに自分から誘うことができない。遠出の際に、交通手段として電車以外の選択肢がない。旅行先でレンタカーを借りることもできない。なにより運転に疲れた友達の代わりにハンドルを握ることが許されない。

高いビルから東京の街を見下ろすとまるで血管のように道路が伸び広がり、ゆっくりと数珠つながりに走る車は赤血球を連想させる。道路は都市の動脈だ。そして車が多すぎる東京は少々血行不良に見える。ここを走るのはストレスだろうな、と思う。だがそれも運転したことのない人間の物言いかもしれない。手の届かない葡萄に対してすっぱいと負け惜しみを言う童話のきつねのようなものだ。都内ではスピードを出すこともなかなか難しいだろうが、車の運転は基本的に気持ちがいいだろう。スピードを上げて車を飛ばす行為は楽しいはずだ。車が発明されたのも移動効率だけが考えられたわけでは絶対にないと思う。ある日誰かが「スピードを出すのは気持ちがいい」と発見したのだ。スピードは間違いなく快楽だ。

運転免許がないと書いたが、車を運転したことがまったくないかと問われれば、それは「ある」と答えなければならない。それも、公道ではなくサーキットで。嘘ではない。普通免許のない僕は、サーキットで車を運転したのだ。ほんの一度だけ。

それはやはりアルバイトに明け暮れていた19歳の頃の話で、僕は友人のHと一緒に仙台のとある警備会社のアルバイトに登録していた。接客などとは違って退屈で面白味のない種類の仕事だったが、不定期にできる気安さとギャランティが週払いというシステムが貧乏学生にはありがたかった。仕事は朝から夕方までか、夜から明け方までの2種類の時間帯があった。内容は交通整理から会場の警備まで何種類かあったが、たいていは話相手もなく一人か二人で立っているだけの孤独な仕事だった。しかしその日、Hが持ちかけてきた仕事は少々イレギュラーと言わなければならなかった。僕とHの二人で、レース前夜のサーキットの深夜警備をすることになったのである。

仙台には大きなレースが行われるサーキットがいくつかあるが、我々が警備をしに行くことになったのはその内の一つだった。サーキットは飛行場と同じで騒音回避のために山奥にあることが多く、今回のそのサーキットに行くのにも市街地から車を一時間ほど走らせなければならなかった。僕は前に書いたように免許がなかったので、Hの運転する車の助手席に座ってサーキットに向かった。途中のコンビニで食事を買い、ぼそぼそと他愛もないことをしゃべりながら、ちょうど暗くなった頃に到着したのだった。ぽつんとした管制塔と、巨大な駐車場。山に囲まれた静かなるサーキット。あたりは静まり返り、聞こえてくる音と言えば山鳩と虫の鳴き声だけだった。我々は出入口付近のチェックを行い、指示されていた仕事としていくつかの確認をした。それが終わればもう不審者が入ってこないように備えておけばいい。簡単な仕事だった。我々は車のリクライニングを倒し、雑誌を読み、腹が減ったらコンビニの弁当を食べた。人のいないサーキットは本当に静かで、侵入者がいたとしてもそれは人間というよりも動物くらいなのではないかと思われた。

いったい僕が言い出したのかHが持ちかけたのかは定かではないが、あるひとつの提案がなされた。それは「せっかくだから車の運転を練習しよう。しかもサーキットを走ってみよう」というものだった。まさにミイラ取りがミイラというか、こういう事をする輩が来ないようにチェックをするはずの仕事のはずだったのだが、まさに我々が侵入者になったのだった。車は警備会社のもので運転初心者におあつらえ向きなオートマ車である。条件は申し分なかった。邪魔する者は誰もいない。僕はHから簡単に運転の仕方を教わると(アクセル、ブレーキ、ギアチェンジ)、恐る恐るサーキットの中へと入って行った。助手席には教官H。深夜なのでライトをつけないと何も見えない。車のライトに照らされた前方に浮かび上がるコースは、思いのほか幅が狭く細く感じられた。運転はまったくの初めてなので、何度もエンストした。それでもHは根気よく教えてくれて、車はじわじわと誰もいないサーキットを進んでいった。ぶつかるものはないとはいえ、真夜中の道でスピードを上げるのは結構な恐怖だった。だが僕は徐々にだが感覚を掴みはじめていた。何周かしたあたりで教官Hは言った。
「じゃ、一人で走ってみますか」

夜が明けようとしていた。漆黒だった夜空が深みのある青のグラデーションに変わっていく。山の端が薄むらさきに染まり、一日の始まりに新鮮な空気が吹き込まれたような、そんな爽やかな時間。朝。さっきよりはコースがよく見える。明るさのせいなのか僕の目が慣れたせいなのかは分からなかったが、爽快な気分だった。直線ではスピードを上げてみた。今まで知ることのなかった気持ちの良さを感じた。自転車やバイクとはまた違う、大きな物を自分が操っているという感覚。車の感覚。そして第一コーナー、サーキット独特の急カーブ。僕は慌ててハンドルを切ったが、スピードが出過ぎていたのだろう、音を立ててタイヤがスリップし車はわずかにコースアウトした。道にスリップの跡がついたかもしれなかったが、かまわず走り続けた。僕は可笑しくなった。明け方の無人のサーキットを警備会社の車がよちよちと走っている。ぜひ上空から見てみたいと思った。それはさぞかしチャーミングな光景に違いない。

「面白かったよ。すごく」僕はHに告げ、車を駐車場に戻した。夜はすっかり明けていた。仕事の時間が終わろうとしていた。僕は数時間後に訪れるはずの、このサーキットで行われるレースとその賑わいを思った。そして僕が第一コーナーに残したであろう、あのスリップの跡の事を思った。早朝だったが陽射しは強く、十分に暑かったが空気は澄んでいた。まだ交通量の少ない真夏の道を、Hの運転する車は軽快に街に向かって走っていった。

(了)
by shinobu_kaki | 2007-05-23 12:52 | ライフ イズ | Trackback | Comments(4)

本を買い込んで。

日曜日に渋谷へ出かけ、本を何冊か買ってきた。
パルコブックセンターはLIBROになったんだね。
それにしても相変わらず本屋はワンダーランドというべき知の宝庫で、
どんな人でも一生かかっても読み切れないほどの書籍が、
あろうことかリアルタイム更新を繰り返しながら増殖し鎮座している。
休日にふらりと本屋を訪れるたびいつも軽い高揚を覚える。
良い本に出会うことは面白い人に出会う事と同義だ。
大げさでなく一冊の本が人生を変えることもある。
そんな淡い期待を心の底に秘めながら、人は本屋を訪れる。

地下沢中也「預言者ピッピ」
見城徹「編集者という病」
KINOvo.2「思考としてのガンダム」
伊坂幸太郎「チルドレン」

これらを一度に買い、そのうち伊坂幸太郎以外は全て読んだ。
通勤の電車で、昼メシのテーブルで、少しずつ、しかし一息に読み切った。
今回の本はどれもアタリで、それぞれ非常に面白かったね。
特に「編集者という病」は、読むと体温が3℃ほど上がる感じだ。
まとめて書くのはもったいないので一冊ずつ感想戦と行きたい。
書けたら、だけどね。

あ、あと映画「スクール・オブ・ロック」も凄く良かった。
観ると元気になる映画。ジャック・ブラックはいいなあ。
最後のステージのシーンだけ3回も観てしまった。
これも書きたいね。曲がずっと頭を回っている。

♪教師のペットでいたけりゃ  何もかもあきらめな
 ロックは意味なし リズムなし 遅刻せずに学校へ…
by shinobu_kaki | 2007-05-23 02:03 | shinoBOOKS | Trackback | Comments(0)

ラグビーを見ている。

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世の中には2種類の人間がいる。
ラグビーの似合う人間と、そうでない人間である。
僕はタイプとしてはかなり後者に属する、と思う。

ぶつかりながらかわしながら、楕円のボールを前に運んで行く。
相手と接触してもものともしない屈強さと、
華麗なステップワークで相手をかわす俊敏さが求められる。
ラグビーでは、自分より前にパスを出してはいけない。
サッカーを見慣れた目にはずいぶんと不自由に感じるが、
もともとサッカーも同じルールだったのだ。
サッカーが今のように自由にパスを出せるようになったのは、
ルール変更が行われてからのことなのである。

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家の近くの図書館に本を返しに行ってから、河原に立ち寄った。
いつもサッカーや野球が行われている河川敷で、ラグビーに遭遇したのだった。
図書館ではそれなりの人数が、涼しい館内で静かに本を読み耽っている。
かたや、雄叫びのような声を上げながらぶつかり合いながら、
楕円のボールを泥だらけで追いかけている。
いろいろな休日の過ごし方がある。
静かに本を読んで過ごす。熱くボールを追いかける。
僕はどちらにもなりきれない。
どちらにもなりきれない僕は、夏のように照りつける太陽のもと、
ビールを飲んでラグビーを見ている。
by shinobu_kaki | 2007-05-20 14:36 | ライフ イズ | Trackback | Comments(2)

コロッケの日。

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今日の晩御飯はお家でコロッケでした。
何より揚げたてが食べられるというのは本当にいいね。

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俵型のコロッケはサクサクで、何もつけなくても十分に美味しい。
でもソース、ケチャップ、マヨなどをお好みでつけて食べました。

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こちらは付け合わせの小松菜とエノキの炒め煮。

家で揚げ物というのはハードルが高いかと思ったんだけど、
以前のとんかつの例もあるし、結構行けちゃうもんなんですね。感心。

ビール、スープにワカメゴハン付きで。
揚げ物づいてしまいそうです。
次回は鳥の唐揚げの予定?
by shinobu_kaki | 2007-05-19 22:00 | 基本はウチめし。 | Trackback | Comments(0)

移動祝祭日


by Shinobu_kaki