「誰も知らない」インタビュー

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今回ようやく観る事ができたシノブさんですけど、いかがでしたか?
 「まず特定の作家の追っかけというものをしない私にとって、
  是枝監督というのは特別です、作品がリリースされたなら観ずにはいられない、
  こういう存在はほかにありません、漫画家の岩明均くらいでしょうか、
  『生きているのは、大人だけですか』
  というのがこの映画のキャッチコピーですが、
  とても的確で良くできたコピーだと思いました、生活力という点において、
  大人と子供は同じではない、しかし大人と同じように、
  子供も人生を生きている、喜び、傷つき、笑い、食べ、時に苦しんで、
  自分というものを生きているわけです」

ちょっと固いですよ。もとになった事件は御存じでしたか?
 「知っていました、88年に巣鴨で起きた事件はそれは陰惨なものでした、
  長男とその友人による虐待の疑いもあったようです、
  そういう意味でこの映画はフィクションです、
  しかしこの映画の素晴らしさに関してはそういったことは重要ではありません、
  恐ろしく丁寧なディテールの積み重ねでできた映画でした、
  ディテールが全てを語っていました」

今さらですがこれ、ネタバレの危険性はありませんか?
 「レビューというのは基本的にネタバレの性質を持ったものだと理解します、
  まあ中には上手に書いているものもありますがね、
  まだ観ていなくてネタバレがイヤな方は、これ以上読まないほうが無難です」

ディテールの件に戻りますが、例えばどういったものがありましたか?
 「YOU演じる母親はどうしようもなく『女』であり、
  母親としての自覚は十分とは言えなかった、
  それでも子供達は母親が大好きだったし、母親のぬくもりを求めていました、
  長男、血の繋がっていない子供たちですがあえて長男という言葉を使いますが、
  長男の明は漢字の宿題でわからないところを一度辞書で引いておきながら、
  帰ってきた母親にわざわざ聞いていました、
  母親と話すきっかけをつくっていた訳です、
  長女の京子は母親が酔って帰ってきたある夜に塗ってもらった
  赤いマニキュアに、母親との繋がりを終始求めます、
  床にこぼれたマニキュアのしみにでさえもです、
  次男の茂は奇声を発したりしていわゆる『くそガキ』として
  描かれていましたが、彼は母親が帰ってきていなくても
  食卓の席をひとつ母親の為に空け、自分は小さい椅子に座る、
  ディテールというのは例えばそういった部分です」

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なるほど非常に丁寧ですね。子供たちの窮状の原因となった
母親役のYOUはどうでしたか?

 「この映画の、というか是枝映画はみなそうだと思うのですが、
  映画の中で人に対するジャッジメントがなされていません、
  善と悪で語られていないのです、母親は無自覚で無責任だけれども、
  ひとりで子供4人を育ててきたのはまさに彼女なのです、
  例え男にだらしなく、子供たちとの晩ごはんの席で
  缶ビールを3本空けるような母だとしてもです、
  彼女がああやって世間に子供の存在を隠して
  生きて行かなければならないというのは、
  非嫡出子というかイレギュラーな子供に対するこの国の法律、
  目に見えない差別が、彼女や子供たちを追い込んだと言えると思います、
  彼女はなにも望んでそうしたのではない、
  こそこそと嘘をつきながら生きて行かざるをえない
  理由があったということです、映画の中で彼女が
  『出て行ったお父さんのほうが勝手じゃないか』と長男に言いますが、
  彼女も被害者意識があり、そして実際に被害者とも言えるのです」

母親との時間や心の交流は豊かなものとして描かれていましたね。
 「どんな家族でもやはりかけがえのないものですから、
  お互いに愛おしいものではあります、どうしようもなく悲惨に見える状態でも、
  他人からはうかがい知ることのできない、豊かな時間というものは
  どの家族にもあるものです、そこにはいろんな形が存在します」

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他の役者はいかがでしたか?極端に出演者の少ない映画ですけども。
 「カンヌで最優秀主演男優賞を受賞したのは明役の柳楽優弥くんでしたが、
  どの子も素晴らしかった、YOUもはじめは微妙かなと思いましたが、
  作品の無邪気で無責任だが苦労してきた母親像としては絶妙に合っていて、
  やはり正解だったのかもと思いました、しかし私としては
  長女の京子役、北浦愛(きたうら あゆ)にもっとも凄みを感じました」

大人しいけどしっかりした女の子の役でしたね。
 「あまり感情を出すわけではないのだけど、非常に表現力があったと思います、
  カンヌの審査委員長はタランティーノでしたが、
  彼に彼女の静かなる凄さが理解できたか疑問です、
  実際、オーディションの時には監督は彼女を10秒で即決したそうです、
  演技過剰にならない、感情の説明をしない演技のリアリティを
  彼女は持っているという事です、このことは是枝監督も語っていますが、
  彼女は11歳にしてすでに“女優”だったのです、
  普段の彼女は役とは違ってとても明るく快活で、
  何度やっても演技が変わらないし、
  常に『監督さん、京子はこの時なにを考えているの?』といった
  ディスカッションをしつつ、
  直前までゲームをしたりしてふざけて笑っていても、
  カメラが回ると一瞬で『京子』として役に入る、
  これを女優と呼ばずして何と呼ぶのでしょう、
  僕がいちばん好きなのはみんなで公園に出かけるシーンですが、
  ここでみんな本当に嬉しそうな顔をするのです、
  年不相応に大人の役割を演じさせられた子供たちの、
  小学生の子供に戻った心からの笑顔です、
  中でも柳楽くんの笑顔はこちらもにこやかになるような、
  そんな力があったと思います、素晴らしい笑顔でした」

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なるほど、さっきから絶賛ばかりですが、不満はなかったのですか? 
 「ほとんどありませんが、まあ物凄く強いて言うなら
  次女のゆきちゃんが可愛すぎたことでしょうか、
  映画のバランスが崩れるほど可愛かったと思いました、
  彼女も目に力がありました、すごく」

タテタカコさんの曲はいかがでしたか?
 「『宝石』ですね、私の記憶が確かならば、
  是枝監督がボーカル入りの曲を映画で使うのは
  これが初めてではないですか?」

ええと手元の資料では、
劇中はおろかエンディングでも使った事はないそうですね。

 「そうでしょう、しかし驚くほどフィットしていました、
  フィットどころかその『違和感』が絶妙で、
  歌詞が、曲が、驚くほど染み込んできましたね、
  非常に効果的だったと思います、
  感情を『持って行かれる』感覚を味わいました」

最後の質問ですが、この映画を観た事で
自分の中で何かが変わりましたか?

 「昨日観たばかりですから、これからボディブローのように
  効いてくるのだとは思いますが、
  とりあえず街ですれ違う子供、また親子連れに関して
  前より暖かい目で見るようになったと思います、
  夜、街の明かりをみるといつも思うのですが、
  明かりの分だけ暮らしがあるわけです、
  一瞬すれ違っただけの親子連れにもそれぞれ、
  幸せなり苦労なり葛藤なりがあるわけですよね、
  当たり前のようですがそういった想像力を
  おろそかにしたくはないという事ですね、
  そして今回の話は日本のシステムの隙間に沈む
  プア・ジャパニーズの話だとも言えます、
  この映画に描かれている家族とまったく同じではないにしても、
  似たような境遇の人間というのは確実に存在するだろうと思われるのです、
  しかし彼らは世の中にまるでいないもののように扱われ、
  まさに“誰も知らない”存在なのですが」

子供をナマ暖かい目で見るようになった、ということですね?
 「ちょっと、やめてください、『ナマ』をつけると
  違う意味になってしまうじゃないか、 
  だいたい私は昔から子供は好きなんです」

子供が大好物、ということですか?カミングアウトですか?
 「ロリコンみたいに言わないでください、そんなことはない、
  私はノーマルだ、まったくおかしな性犯罪者のせいで
  『子供が好きだ』という当たり前のことが言いづらい世の中だ、
  だいたい」

それではインタビューを終わります。ありがとうございました。

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誰も知らない(2004年)
監督:是枝裕和
製作:「誰も知らない」製作委員会
出演:柳楽優弥
   北浦愛
   木村飛影
   清水萌々子
   韓英恵
   YOU
配給:シネカノン
by shinobu_kaki | 2004-09-11 14:29 | 人生は映画とともに
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