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癖。


髪をかきあげる、
というには少々強めの仕草で指を髪に這わす。
手ぐしはスタイリングのためのものだが、
もっともっと大雑把で荒っぽい。
髪を手づかみで引っ張っているというのが近いだろうか。
引っ張られた髪は指の間に数本ずつついてくる。
そのうちに指通りがそれなりになめらかになっていき、
指に髪の毛は引っかからなくなる。
何がしたいわけではない。
もちろん髪を抜きたいわけでもない。

自分の身体にさわる、
というのは何かの精神状態のあらわれなのだと言われる。
だから髪をかきあげるのも、
不安な時に指を口元にやったり、
ストレスに爪を噛んだり、
そういったものと似たような種類の、
うんと軽いタイプのものなのではないかという。

逆に言えば、
健全なる精神状態を保てている人は、
自分自身の身体を触ることなく過ごしているということか。
それも何だか凄い。
きっとそういう人は、歯を磨いたり顔を洗ったり、
ひげを剃ったり髪を整えたりといった、
いわゆる手入れの時にのみ、
きわめて意志的に自分の身体に触れるのであろう。


そもそも癖とは余計なものである。
人は何かしら癖を持っていると言われるが、
全員に共通する同一の癖というのは、ないだろう。
つまり癖自体は本来、人にとって必要なものではないのだ。
どうしても出てしまう、何かがこぼれるように表出されるのが、
その人の癖というものである。
そこに、たくさんのバイアスがあるだけだ。

癖のことを思うと何だかせつない。
私たちは出てしまうのだ、どうしても。
完全に、完璧に、平静で、フラットな状態では生きてはいないのだ。
癖というのはそんなせつなさの目に見える証拠であって、
誰もがみな、何かを、そんなふうに持て余しながら、
生きていることをありありと教えてくれる。

不満を感じ、矛盾に悩み、調子に乗り、
時に立派なことを言いながらそれほど立派ではいられない、
愛すべきというにはあまりにも厄介。

誰もが何かしら持っていて、持て余している。
人の数だけ癖があり、癖の数だけ人がいるのだ。
今日も人々は、髪をかきあげ、
膝をゆすり、鼻を鳴らして笑っている。
by shinobu_kaki | 2010-08-03 15:10 | ライフ イズ

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