2004年 12月 13日
冬の夏休み。「最後の紅葉の国で」篇
車内の「おばちゃん率」がぐっと上がり、のどかな風景とあいまって、
思わず自分の田舎を思いだす。
長いトンネルをいくつかくぐり、90分ほど走って目的地に着いた。
金沢の少し手前の温泉郷。ここに友達が住んでいる。
なぜか駅前には無数のシャボン玉が舞っていた。
天気はとても良い。
「女子高生と、40年後の女子高生」ばかりの乗ったバスに揺られ、
友人の家にたどり着く。友人が着物で出迎えてくれた。
着つけの先生もしているという彼女はまさに「毎日が着物」だ。
さらりと見事に着こなしている。
旦那さんとそのお父さんにも挨拶をし、
2階におジャマになる。まもなく4歳になる長男・リンタローが帰ってきた。
以前、一緒に品川水族館に行った記憶があるため、
僕のことを「スイゾクカンのお兄ちゃん」と呼んでいるそうだ。
ちょっと、つげ義春の「ゲンセンカン主人」っぽいと言えなくもない。
彼のお父さん曰く「恐ろしいほど人見知りしない子」という彼は、
スイゾクカン以来数年ぶりの対面になる僕の膝の上にいきなり乗ってくる。
まったくテレがない。たしかに恐ろしい。
くすぐったり、肩車したり、機関車トーマスのおもちゃで遊んだり、
一緒に「アラジン」のビデオを見たりして過ごす。
晩ゴハンは謹製のビーフシチュー。ビールとワインで。
とても美味しい。シチューをお代わりする。
リンタローは野菜が苦手だが、ブロッコリーを頑張って食べていた。
彼はきちんと「アリガト」の言える良い子なのだった。躾が良いのだ。
温泉街の特権は、日常的に本格的な温泉に入れることだ。
ゴハンのあと、歩いてすぐにある温泉に行った。
このあたり一帯の元湯だという深さたっぷりのお風呂は8m×10mほどと大きいが、
かなりの大勢が入りに来ており、人でいっぱいの印象だ。
しかしそれらも、真っ白な湯気で向こうが見えない。すごい光景である。
ご近所らしき人々が世間話を交わす。そういう意味でここは、
昔ながらの「湯屋」なのだろう。社交場なのである。
湯船に長めにつかると、身体がポカポカしてくる。
これ、毎日入ってたら健康になるよなあ、なんて思いながら近所を散歩してみる。
あやとり橋。
草月流家元・勅使河原宏氏デザインらしいこのS字型の橋は、
夜には美しいライトアップを見せるのだった。
足元には深い渓谷があり、水の音が聞こえる中、
暗闇に突然赤く浮かび上がる、この光る橋はちょっとした感動。
友人宅に戻り、仕事の終わった旦那さんと奥さんである友人と3人で飲む。
限定の貴重な泡盛「沈黙」を出してくれた。
12時過ぎまで飲み、休んだ。
朝。
7時過ぎに目が覚める。みんなは6時には起きていたらしい。
朝が早い。人間はこうでなければ…とか思いつつ、朝ごはんをいただきます。
ブリのテリヤキと卵焼きの朝ごはん。
ブリが甘くてとても美味い。というかとても健康的な気がする。
朝、きちんと「朝ごはん」を食べることがとても豊かなことのような気持ちになる。
人間は食べ物でできているのだ。ジャンクな食事ばかりでは駄目なのだ。
そんなことを思いながら、ごはんをやっぱりお代わりする。
おお喰らいの居候。僕は「オバQ」かと。
オバQは散歩好きだ。
ゴハンのあとに朝風呂に行き、カメラを持って辺りを散策する。
昨夜の「あやとり橋」の上流に、総ヒノキ作りの「こおろぎ橋」がある。
ゆるやかなアーチ状の小さな橋はとても情緒があり、
雪のシーズンはまた味があって良いだろうな、と思わせるのだった。
もう葉も散ってしまった12月だが、ところどころ紅葉が残っている。
こおろぎ橋のすぐ近く、恐ろしく鮮やかな紅葉を見つけた。
透明感のある空の青に、日光を受けて光るように赤い紅葉を眺める。
単発ながら、これほど鮮やかな紅葉は記憶にない。
最後の紅葉をすべて引き受けたかのような赤さに思わずシャッターを切るが、
僕の写真の腕では再現しきれないものだった。
ふと、わき道に参道を発見。「天狗岩参道」とある。
登ってみようと思い、5メートル分け入ると看板があった。
「熊が出ます。注意」
注意って。僕の戦闘力では闘えないぞ。熊まで5メートル。(・(x)・)
でも熊って前脚が短いから、坂を下るのは遅いって言ってたし逃げ切れないことはないか、
などと「私的熊遭遇時のシミュレーション」をしてみるが、
熊を敵に回すリスクと天狗岩とを天秤にかけ、
それ以上の進入はちょっとやめてみた。
散策の帰りすがら、「カニのみそ汁1杯100円」のサービスがあった。
山の中とはいえ、やっぱり石川県はカニなんだなあと思いつつ、
座って、あっさり味のカニ腕をすする。
午後早め、友達が金沢でパーティがあるというので、
便乗してクルマで連れていってもらうことにした。
元女将の彼女は着物にサングラスというファンキーないでたちでクルマを運転する。
途中の小松でパーティに同行するという「年上」の生徒2人を拾い、
海岸沿いの道を金沢へ向かう。
久しぶりに見る日本海は青く、そして穏やかなのだった。
つづく。