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「誰も知らない」プレビュー

マーロン・ブランド、ポール・ニューマン、オーソン・ウエルズ、
マルチェロ・マストロヤンニ、ジャック・ニコルソン、ジャック・レモン、
ウィリアム・ハート、ジョン・タトゥーロ、
ティム・ロビンス、ショーン・ペン、柳楽優弥…。

過去のカンヌ最優秀男優賞受賞者のお歴々(抜粋)です。
いやービッグネームが目白押し※。
日本びいきのタランティーノが審査委員長ということをさっぴいても、
ここに名を連ねたのは快挙と言えましょう。

14歳の、それも俳優経験のほとんどない、
映画初主演の少年が世界に冠たるカンヌ映画際でグランプリを獲った。
もちろん史上最年少。そして日本人として初。
いま、ワイドショー的にも非常に色めき立っている話題ですね。
(まあ、ワイドショーは一週間ほどで忘れてしまうのだろうけど…。)
授賞式のその瞬間、本人は中間テストで帰国していたというのも
ちょっとカワイイエピソード。まさか選ばれるとは思ってなかったでしょうね。

そいで、グランプリ(パルム・ドール)が
マイケル・ムーアの「華氏911」でしょう。
こちらもドキュメンタリータッチとのこと。
カンヌの選考基準ってなんか面白いね。

ただ、これで彼が凄い俳優として羽ばたいて、とか
そういう継続的なものは感じない。
映画を観ずに言ってしまうのもどうかと思うが、
今回は監督の手腕が大きかったのでは?

その監督は是枝裕和氏。
主にドキュメンタリー番組の演出家としてのキャリアを持つ人。
「モノより思い出」「朝のリレー」のCFを手掛け、
映画では「幻の光」「ワンダフルライフ」「ディスタンス」。
この「誰も知らない」が4作目にあたります。
一貫して、とても静かな映画を撮る人です。
でも、淡々と静かなだけじゃない。

彩度の低い静謐さの薄皮を一枚めくると、
むしろ生々しいリアルさ、緊張感がぐつぐつと煮立っている。
寒色であるはずの青い炎のほうが、赤い炎よりも熱い。
そんな事を思いだすわけです。

そういったリアリティを引き出す彼の演出技法としては、
「役者に任せる」ということがあるようです。

前作「ディスタンス」は、
無差別殺人事件を起こしたカルト教団の実行犯が教団に「始末」され、
その現場である山奥の湖に、一年に一度、実行犯たちの遺族4人がその命日に集まる、
3年目のその日、そこで…という話。

4人とはARATA、伊勢谷友介、寺島進、夏川結衣。
監督はこの出演者たちに、通しの脚本を渡してなかったらしい。
出演者それぞれ、台本が違ったらしいですね。
するとどうなるかというと、相手に向かってしゃべっているんだけど、
その相手がどんなセリフで返してくるか予想がつかないという。
とくに「ディスタンス」においては、
「一年ぶりにあった4人だから、最初は探り合いがある。そこを引きだしたい」
という監督の意図がうまくはまっています。
湖に向かう車のなか、4人の会話が徐々に慣れていってるのが自然にでている。
非常に面白い。
ARATAとりょうの「孤独な鳥」の話はARATAのアドリブらしいし。
「ここのシーンは、何でもいいから喋って」という
そういう演出をつける人なんですね、是枝監督。
ケンカして激昂する場面とか、ちょっととちったりする。
でもそれが、リアル。
みんな日常会話では、キッチリ喋ってるわけじゃないもんね。
役者がセリフを読むみたいには。

今回の「誰も知らない」も、台本は渡されていなくて、
シーンを撮影するごとに監督がセリフを口頭で伝えるというやり方だったらしい。
そう言えばたけしも似たようなことやってたっけ。
2人とも、共通してあるのは「照れ」の感覚なんじゃないかな。


この映画の元ネタとなった事件は実際にあった話で、
「巣鴨子供置き去り事件」で検索すると詳細の書かれたサイトが見つかります。
よく、駐車場の車に自分の子供を置き去りにしてパチンコに興じて、
子供を死なせてしまう主婦がいるじゃないですか。
あれと「無責任」という軸において同列で、そしてさらにむごい事件。
僕は数日前にそのサイトで読んで、
ずうっとココロのどこかにイヤな感情がオリのようにたまったままなのです。
なので、サイトは捜さないほうが賢明。見るもんじゃない。
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のセルマも真っ青の、救われない、
とんでもなく陰惨な実話なんだよね。


「誰も知らない」は今年夏、
有楽町シネカノン、渋谷シネアミューズにて公開予定。
by shinobu_kaki | 2004-05-25 13:08 | エウレーカ!

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