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「地図のファンタジア」尾崎幸男

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その昔「時は“刻む”と言う。なぜだろう」という広告コピーがあった。

本書はその由来となるギリシャ神話のエピソードから始まる。
ゼウスたちオリュンポスの神々との抗争に敗れた巨神族(ティタン)が、
それぞれいかにも神話的な苦役を課せられる。
不死身のプロメテウスは鉄鎖につながれて永久に禿鷹に内臓を食われ、
力持ちのアトラスは世界の果てで永久に天球を背負い続ける。
そして時をつかさどる巨神族頭目のクロノスは、
敗戦の代償として永久にその身体を刻み付けられることになった。
「刻む」というのはここからきているのだという。
後付け的なエピソードだが、こういうのはなかなか面白い。
地図帳は一般に「アトラス」と呼ばれる。
もちろん前述の天球を背負ったアトラス神から来ている名前で、
ジブラルタルのアトラス山脈の名前の由来になっていたり、
幻の大陸アトランティスの名前の元でもあるのだ。

この「地図のファンタジア」という本は、
「測量」という雑誌に数年間にわたって連載されたものをまとめた一冊だ。
それにしても雑誌というのは奥が深いというか多様だというか。
知ってました?「測量」って雑誌。なんだかすごい世界である。
そしてこの本は非常に面白かった。

ナポレオン時代、スエズ運河がまだ開通していなかった頃、
「地中海よりも紅海のほうが水位が10m高い」という言い伝えがあった。
もしそれが本当なら、運河を通すと同時にエジプトに水が流れ込み、
土地が水没してしまう。ナポレオンの部下の技師が測量を行ったが、
確かに10m後悔のほうが高い、との報告をした。もちろん誤測である。
これによってナポレオンはスエズ運河の開削をあきらめた。
この誤測がなければ、歴史が変わっていたと言われる。

…なんていうエピソードが満載で、なかなか興味深い。
ほかにも、南極を目指したスコット隊の生死を分けた誤測の話、
三国志において孔明が陸遜を欺いた「八陣の法」の話、
「人の目はなぜ横並びでついているのか?」の話(なぜでしょう?ふふふ)、
地図の世界では有名な「四色問題」の話、
ゲーテの「ファウスト」のようなドイツ・ケルンの巨大なドームと悪魔の話。
どれも面白い。オススメです。

最後に小ネタを(有名かな?)。
東京都の大田区がなぜ「太田区」ではないのかわかりますか?
それは、「大森」と「蒲田」の一文字づつを取った区名だから。
命名当時は批判も多かったそうである。
まあ、由来だけ聞いちゃうと安易な感じがしますからね。
大森と蒲田以外の街はどうなるんだ、という話もある。
by shinobu_KAKI | 2006-08-13 09:44 | shinoBOOKS

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