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よしもとばなな「ハネムーン」

なにかが治っていく過程というのは、見ていて楽しい。
季節が変わるのに似ている。
季節は、決してよりよく変わったりしない。
ただ成り行きみたいに、葉が落ちたり茂ったり、
空が青くなったり高くなったりするだけだ。
そういうのに似ている、この世の終わりかと思うくらいに気分が悪くて、
その状態が少しづつ変わっていく時、
別にいいことが起こっているわけではないのに、
なにかの偉大な力を感じる。
突然食べ物がおいしく感じられたり、
ふと気づいたら寝苦しいのがなくなっていたりするのは
よく考えてみると不思議なことだ。
苦しみはやってきたのと同じ道のりで淡々と去っていく。

(よしもとばなな「ハネムーン」より)


ウェディングを行ったハワイには何冊か本を持っていったが、
そのうちの一冊を飛行機のどこかに置き忘れてしまったこともあって、
部屋にじっとしている時は常に何かを読んでいないと落ち着かない僕は、
残った本を何度か読んでしまうとすぐに本が恋しくなった。
もちろんワイキキは初めてだったし、そこらをブラブラするだけで
十分に新鮮なひまつぶしになることは知っているのだが、
オアフ島の陽射しはそれなりに強く、日がな外を歩いて過ごすには、
少々向かない日光の強さではあったのだった。

我々の滞在したモアナ・サーフライダーはいわゆるリゾート・ホテルであり、
中庭のプール、楽園のようなビーチ・バーなど、
それはそれは快適に過ごせるようなホスピタリティと言わねばならなかった。
でも、やはり一日のうちの何時間かは部屋で何もせずに過ごすことがあり、
そんな時に本があると退屈せずにすむのである。

僕はワイキキのどこかに日本語の本を扱っている書店があるのではないかと、
淡い期待を抱いて散歩がてらに探してみたのだが、
捕まえた道案内のガイド曰く、そもそもワイキキにはさしたる本屋はなく、
特に日本語の本が欲しければアラモアナ・ショッピングセンターへ行くべし、
とのことだった。僕らはお土産の下見を兼ねて、トロリーに乗って出かけてみた。

アラモアナ・ショッピングセンターはなかなかに広大で、
1階には大きなフードコートがあった。そしてやはり日本人が多い。
ひとつ大きなブックショップがあったが、そこで取り扱っているのは洋書ばかりだ。
日本語の本を求めてもっと奥へと進み行くと、そこにはブックオフがあった。
ワイキキの街のどこを探してもなかった日本語の本が、
ここには中古とはいえリーズナブルな価格でトコロ狭しと並んでいた。
僕は迷ったあげくに芥川賞受賞作の掲載された「文藝春秋」と、
宮部みゆき「龍は眠る」、そしてよしもとばななの「ハネムーン」を買った。

「ハネムーン」を買ったのはもちろん僕がハネムーンの最中だったからで、
それ以上のことは何もなかった。まあ、小説自体は題名から受ける印象とは違い、
それほどスウィートでメロウなものではなかったけれど、
相変わらず女性の一人称で語られるちょっとした「世界の秘密」は、
日本語に飢えていた僕にとって十分に満足できるものではあった。

「ハネムーン」はハワイ滞在中にだらだらと2回読んだ。
そして宮部みゆきの「龍は眠る」は帰りの飛行機の中で一息に読んだ。
同じ女性作家ながら、読むべきスタイルというか、
作品が読み手に強いる何か、というものがまったく違って面白い。
by shinobu_kaki | 2007-09-24 01:24 | 言葉は踊る。

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