2007年 12月 10日
不必要な情報
「よく歩くことで、頭の中に堆積していた不必要な情報が整理される。
身体との対話が自分を原型へと戻してくれる」
という意味のことを書いていた。
「バガボンド」はいわゆる武蔵と小次郎の物語だが、
折に触れて「精神のありよう」を表している作品でもある。
勝手に意訳・列挙するならば、
「身体の力を抜かなかれば身体は動かない」
「一点にとらわれず全体を見ろ」
「本当に強い者はみな優しい」
といった精神論的な話がちりばめられている。
冒頭の「身体との対話」もそうである。
それゆえにか、井上雄彦は老人を描く時の筆致が生き生きして見える。
老人たちは一種の「人生の達人」で、こうした人生訓が似合う存在だからだ。
最近では本阿弥光悦の描き方が良かった。
優れた作家は時として「時代への回答」を作品で示すものだ。
大ヒットを飛ばしたバスケット漫画の次がこの「バガボンド」だったわけだが、
今の時代にあえて時代劇というのは井上一流の嗅覚だったのではないか。
なぜなら最初に書いたような「余分な情報と身体感覚」というのは、
現代においてもっとも失われたと思われる価値観のひとつだからである。
休載がちな「バガボンド」は単行本でまとめて読むのが良い。
特に吉岡七十余人との一乗寺下り松での死闘などは、
連載時はちょっと間延びして感じられたものだが、
単行本でまとめてだと実に読ませる。物語の流れがはっきり見えてくるのである。
でも「週刊モーニング」を買っている身としては、
載ってるとどうしても読んじゃうんですけどね。