映画「かもめ食堂」 あした世界が終わるとしたら

ああ、こういう映画だったんだ。
これを「いちばん好きな映画」とする人は多いだろうなあ。

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北欧フィンランドはヘルシンキの薄曇りの空、
かもめ食堂の店内の水色に塗られた壁、
小林聡美演じる「サチエ」の芯の強そうな凛としたスタンス、
片桐はいり演じる「ミドリ」の不器用そうな個性、
もたいまさこ演じる「マサコ」のまとう独特の空気、
プールの水音、おにぎりを握る手、とんかつを揚げるジューッという音、
焼きたてのシナモンロールとコーヒー、
フィンランド人のシャイな佇まい、近藤達郎の音楽すべて、
そして井上陽水の歌うエンディング(「クレイジーラブ」!)、
何もかもが全部いいね。

特に小林聡美が素晴らしい。
原作者の群ようこ曰く「何もかも捨てて来た強さを持つ女性」サチエは、
他人との距離のとり方を心得つつ、しかし孤高に陥ることもなく、
あくまで自然な「自立した姿勢」を獲得している。
それが「美しい」と感じるのだ。
片桐はいり、もたいまさこも効いている。
特にもたいまさこの存在感は異様なほどで、ちょっと凄いね。
(まさか、あの片桐はいりが食われるとは…!)
この設定にこのキャストを揃えた時点で、
映画の成功はほとんど約束されていたのではないだろうか。

僕にしてからが、この週末ですでに2回観てしまった。
なんというか、そういう映画。
画面を、この空気を、そして人物たちの静かなやりとりを、
ずうっと観ていたいと思わせるタイプの映画なのだ。
観ている最中、なんだかほっこりと笑ってしまう。
別に「泣かせ」があるわけではないのに、
エンディングではなぜかじわっと来てしまう。
そして観終わった後はなんとなく、元気になる。
こういうのは「いい映画」だと思うよね。

映画の終わり方について。
「かもめ食堂」のエンドロールへの入り方は個人的にとても好きなタイプ。
最後のシーン、最後の一言とともにスパッと切れるように終わるのは、
トラン・アン・ユンの「夏至」や、是枝裕和の「ワンダフルライフ」を思わせる。
これは言わば「そして日常は続いていく」というような表現になっていて、
とてもスマートな処理だと個人的には思っている。
そして「たかぶり」の基本的にないこの静かな映画の中で、
最後の最後に陽水の湿り気たっぷりの歌声が感情を解放するのである。

「あした世界が終わってしまうとしたら、…美味しいものを食べたいですよね」
映画の中にこんなセリフが出てくるが、
観ながら考えていて、確かに僕もそう思った。
なんというか、考えつめるとそれしかないのである。
好きな人と、美味しいものを食べる。
それはとても個人的なことであり、しかしそれが最後にくる、
これしかないという「幸せ」なのだ。
つまり最後は一人一人だということなのである。
そして「あした世界が終わるとしたら何をしたいか」というセリフは、
サチエの凛とした生き方をとてもよく象徴しているように見える。
by shinobu_kaki | 2008-01-12 17:43 | 人生は映画とともに
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