2009年 06月 21日
「宮廷画家ゴヤは見た」
ついさっき「宮廷画家ゴヤは見た」を家で観た。
すごく面白かった!
ちょうど今、こういう映画を気持ちが欲していたのだ。
いやあ、観て良かった。
原題は「Goya's Ghosts」。
邦題は「家政婦は見た」みたいで個人的にはイマイチ。
しかしこの邦題が示す通り、
この映画のゴヤはあくまで時代の目撃者であって主役ではない。
メインとして描かれているのは18世紀動乱のスペインと、
為政者たちの激しい、壮絶なシーソーゲームである。
(以下、ネタバレ含みます)
もっとも激しい浮沈を見せるのが修道士のロレンソ(ハビエル・バルデム)、
彼は一度失墜してその身を追われ、フランスへと逃亡する。
しかし時はまさにナポレオンによる「侵略前夜」だった。
ロレンソは舞い戻った。スペインへも侵攻したフランス軍側の人間として。
かつて彼を追いやったグレゴリオ神父を裁判にかけ、
スペインに対し、教会に対し、華麗なる復讐を果たしたのだ。
そしてこの映画のもう一人の主人公、イネス(ナタリー・ポートマン)。
彼女は裕福な商人の家の娘だったのだが、
ロレンソの主導によっていわれなき「異端尋問」にかけられ、激しい拷問を受ける。
ナポレオン軍の進軍とともに獄中から解放されたのは投獄から15年後、
身も心もボロボロになった彼女は精神を病んでいた。
街が戦乱に覆われる中、イネスは獄中で産んだ自分の娘と、
その父親であるロレンゾをふらふらと探し始めるのだった。
そして王宮画家であるゴヤ(ステラン・スカルスガルド)は、
この2人の肖像画を描いた人物として登場する。
それぞれの激しい運命を「目撃」するのである。
18世紀の終わりから19世紀の始まり。
それはヨーロッパ中に革命がはびこる戦乱の世である。
こういう映画を観るたびに思うのは、
自分がこの時代に生まれていたらどうだったろうということだ。
それは暴力や死が、大々的に、身近にある恐ろしい時代でもある。
激しい時代である。
だが、今が、激しい時代じゃないなんて誰が言えるだろう?
「平和」の定義は「穏やかで幸せな時代」ということではなく、
狭義では「戦争のない状態」なのだそうだ。
そういった意味では今の日本は平和状態なのかもしれない。
血の流し合いがないだけ、穏やかな時代なのかもしれない。
しかし、思う。
昔と今では、激しさの種類が違うだけなのだと。
暴力の種類が違うだけなのだと。
ただ、痛みの種類が違うだけなのだと。
歴史というか、「過去」を扱った映画は、
こうして「認識の相対化」ができるから好きなのだ。
それはとりもなおさず、
「過去とは現在を映し出す鏡」だということなのである。
あと、見所のひとつとして、
当時の銅版画の制作過程がすごく克明に描写されていて、
この見事さだけでも一見の価値ある映画です。
「おお〜」とか声に出しちゃったもんね。
あとは、ゴヤ役のスウェーデン人俳優が伊丹十三に見えて仕方なかった。
並べるとそんなに似てないと思うんだけどね。
降りやまぬ雨の日曜日、
10ヶ月になったばかりの娘を腕に抱く、
そんな「平和」をかみしめながら。
『宮廷画家ゴヤは見た』(原題:Goya's Ghosts)
2006年製作(スペイン/アメリカ)
監督:ミロス・フォアマン
製作総指揮:ポール・ゼインツ
製作:ソウル・ゼインツ
脚本:ミロス・フォアマン他
出演者:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン
上映時間:114分
公式サイト