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「宮廷画家ゴヤは見た」

ミロス・フォアマン&ソウル・ゼインツの映画にハズレなし。
ついさっき「宮廷画家ゴヤは見た」を家で観た。
すごく面白かった!
ちょうど今、こういう映画を気持ちが欲していたのだ。
いやあ、観て良かった。

原題は「Goya's Ghosts」。
邦題は「家政婦は見た」みたいで個人的にはイマイチ。
しかしこの邦題が示す通り、
この映画のゴヤはあくまで時代の目撃者であって主役ではない。
メインとして描かれているのは18世紀動乱のスペインと、
為政者たちの激しい、壮絶なシーソーゲームである。
(以下、ネタバレ含みます)

もっとも激しい浮沈を見せるのが修道士のロレンソ(ハビエル・バルデム)、
彼は一度失墜してその身を追われ、フランスへと逃亡する。
しかし時はまさにナポレオンによる「侵略前夜」だった。
ロレンソは舞い戻った。スペインへも侵攻したフランス軍側の人間として。
かつて彼を追いやったグレゴリオ神父を裁判にかけ、
スペインに対し、教会に対し、華麗なる復讐を果たしたのだ。

そしてこの映画のもう一人の主人公、イネス(ナタリー・ポートマン)。
彼女は裕福な商人の家の娘だったのだが、
ロレンソの主導によっていわれなき「異端尋問」にかけられ、激しい拷問を受ける。
ナポレオン軍の進軍とともに獄中から解放されたのは投獄から15年後、
身も心もボロボロになった彼女は精神を病んでいた。
街が戦乱に覆われる中、イネスは獄中で産んだ自分の娘と、
その父親であるロレンゾをふらふらと探し始めるのだった。

そして王宮画家であるゴヤ(ステラン・スカルスガルド)は、
この2人の肖像画を描いた人物として登場する。
それぞれの激しい運命を「目撃」するのである。

18世紀の終わりから19世紀の始まり。
それはヨーロッパ中に革命がはびこる戦乱の世である。
こういう映画を観るたびに思うのは、
自分がこの時代に生まれていたらどうだったろうということだ。
それは暴力や死が、大々的に、身近にある恐ろしい時代でもある。
激しい時代である。
だが、今が、激しい時代じゃないなんて誰が言えるだろう?

「平和」の定義は「穏やかで幸せな時代」ということではなく、
狭義では「戦争のない状態」なのだそうだ。
そういった意味では今の日本は平和状態なのかもしれない。
血の流し合いがないだけ、穏やかな時代なのかもしれない。

しかし、思う。
昔と今では、激しさの種類が違うだけなのだと。
暴力の種類が違うだけなのだと。
ただ、痛みの種類が違うだけなのだと。

歴史というか、「過去」を扱った映画は、
こうして「認識の相対化」ができるから好きなのだ。
それはとりもなおさず、
「過去とは現在を映し出す鏡」だということなのである。

あと、見所のひとつとして、
当時の銅版画の制作過程がすごく克明に描写されていて、
この見事さだけでも一見の価値ある映画です。
「おお〜」とか声に出しちゃったもんね。
あとは、ゴヤ役のスウェーデン人俳優が伊丹十三に見えて仕方なかった。
並べるとそんなに似てないと思うんだけどね。


降りやまぬ雨の日曜日、
10ヶ月になったばかりの娘を腕に抱く、
そんな「平和」をかみしめながら。


『宮廷画家ゴヤは見た』(原題:Goya's Ghosts)
2006年製作(スペイン/アメリカ)
監督:ミロス・フォアマン
製作総指揮:ポール・ゼインツ
製作:ソウル・ゼインツ
脚本:ミロス・フォアマン他
出演者:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン
上映時間:114分
公式サイト
by shinobu_kaki | 2009-06-21 10:45 | 人生は映画とともに

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